BMWは低炭素アルミの採用を進めている(©BMW Group)

 原材料や部品など、自動車サプライチェーン(供給網)の上流工程で、製造時に排出する温室効果ガス(GHG)を可視化する「カーボンフットプリント(CFP)」の取り組みが広がり始めた。英豪資源大手のリオティントは、アルミニウムの製造工程におけるGHG排出量を開示するプラットフォームを提供する。国内でも帝人と富士通が自転車のフレームでの排出削減効果を可視化した。CFPの算定方法などに関するガイドラインをまとめた経済産業省は「裾野の広いサプライチェーン全体の効率的なデータ共有がカギだ」(製造産業局自動車課)と指摘している。

 CFPの算定や開示は欧州が先行している。自動車業界ではドイツでBMWやフォルクスワーゲン、シェフラーなど大手自動車メーカーとサプライヤー10社が参画し、データ交換基盤「カテナ―X」の利用組織「コフィニティ―X」が2月に発足した。各社はカテナ―Xを活用し、二酸化炭素(CO2)排出量の正確な把握や開示に努める。

 素材業界では、リオティントがアルミニウムの原料であるボーキサイトの採掘からアルミナの生成、製錬、鋳造、ユーザーへの輸送まで各プロセスでのGHG排出量を確認できる「START」プラットフォームを提供する。同社はBMWと低炭素アルミニウムの供給で提携しており、BMWが米サウスカロライナ州に持つ完成車工場に低炭素アルミを供給し、GHG排出を最大7割、削減する効果を見込む。両社間でSTARTの導入の検討も進める。STARTは将来的にアルミ以外の製品にも適用することを視野に入れている。

 帝人は昨年「リサイクル素材の環境価値化プラットフォーム」の実現に向けたプロジェクトを富士通と立ち上げた。リサイクル素材の情報や、各工程でのGHG排出削減効果を可視化している。情報の改ざんがほぼ不可能な富士通のブロックチェーン(分散型台帳)技術も使われている。

 今年1月からは、リサイクルした炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を使った自転車での実証プロジェクトを始めた。今後は電気自動車(EV)の内装材などへの適用も視野に入れる。帝人は「業界を越えて仲間が広がり、対象となる素材も増えれば」と将来を見すえる。

 自動車産業では、車両の生産から廃棄までのGHG排出量を管理するライフサイクルアセスメント(LCA)という概念が広まりつつある。欧州連合(EU)は、24年から電池の製造や廃棄時におけるCFP表示を義務づける。GHGの排出規制を通じ、EU域内に電池産業を呼び込んだり、EU域外からの輸入を防ぎたい思惑も透けるが、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の達成へ向けて自動車メーカーも取引先にCO2削減を求め始めた。経産省自動車課は「完成車メーカーは、従来は把握しきれていなかった材料調達までさかのぼって炭素の〝見える化〟を進める必要がある」と話す。

 自動車サプライチェーン全体で効率的にGHGを減らすためにも、まずはCFPの取り組みを広げることが求められそうだ。