保険修理代金をめぐる交渉環境が変わりそうだ

 いわゆる「保険修理」の代金をめぐる事業者と損害保険会社の交渉環境が新たな局面に入った。大手損保各社は、工賃算出で使用する「指数対応単価」を4月から引き上げる方針を固めた。物価や労務費などの上昇を踏まえたもので、改定は約20年ぶり。国会で、政府から大手損保会社に対して取引の適正化を促す方針が示されたことも改定を後押ししたとみられる。

 指数対応単価は、損保各社が出資する「自研センター」が作成した事故車修理に関する作業時間を示す「指数」にかけ合わせる1時間当たりの単価のことで、自動車整備事業者と損保会社との話し合いで決まる。

 損保各社は指数対応単価を改定する際、消費者物価指数(CPI)の変動に合わせた改定方式を採用している。指数対応単価が上がらなかったのは、1998年をピークにCPIの下落が続いていたためだ。それでも、ある大手損保会社の関係者は「(CPIの下落以降も)指数対応単価は引き下げていない。過去、下落していた際のマイナスの累計値を、近年のCPI上昇の影響が上回らなかったからだ」と説明する。

 そうした中、2022年のCPI(20年=100)は総合で102・3となり、前年比で2・5%上昇した。23年1月は前年同月比で4・3%まで上昇した。このため、大手損保各社は4月から指数対応単価を改定する方針を固めたものだ。

 政労使で価格転嫁の機運が高まっていることも改定を後押しした。2日の参議院予算委員会。公明党の西田実仁議員は、自動車整備事業者と損保会社との取引に言及し「法的には『修理の委託』という下請け関係にはないが、(自動車整備事業者が損保会社に)価格交渉や転嫁が言い出せない取引構造になっている」と指摘。その上で「労務費やエネルギー、原材料価格が高騰している。損保と自動車整備工場との契約関係も、コスト上昇を取引価格に反映するために価格交渉をするよう損保業界に促すべきではないか」と政府を問いただした。

 これに対し、鈴木俊一金融担当相は「損保会社と自動車整備事業者の双方が納得できる適正な内容であるべきと考える。4月以降の工賃単価などの見直しにおいて考慮されるものと認識しており、金融庁として、まずその見直しの状況をしっかり把握したい」と応じた。岸田文雄首相も「金融庁をはじめ、関係省庁においてその取り組み状況の把握に努め、取引の適正化を促してまいりたい」と答弁した。

 大手損保各社は、こうした政府方針も踏まえ「双方が納得できる適正な内容にしたい。例年以上に丁寧な対話を行っていく」(東京海上日動火災保険)、「物価動向など環境変化を注視しながらの対応を予定している」(あいおいニッセイ同和損害保険)などとコメントした。

 日本自動車車体整備協同組合連合会(日車協連)の泰楽秀一調査研究委員長は「賃上げなどが国の方針である以上、経費の上昇を販売価格に転嫁するのが当然で、損保がそれらを認識して是正する必要があることを鈴木金融担当相が示してくれた」と評価する。一方で「本来は企業物価指数に応じて改定すべき。物価上昇に見合う賃上げ率に加えて、適正な利益を加味した数字が提示されることが理想だ」とも語った。

 整備業界を所管する国土交通省は、2年前にまとめた「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」に基づく取り組みを進める。同省整備課は「関係省庁と連携して、自動車整備業界においても価格転嫁対策を支援していきたい」とコメントした。