「アキュラ・プレシジョン・EVコンセプト」
「e:N2コンセプト」

 ホンダが4月1日付で組織改正を実施する。目玉は、電気自動車(EV)の基幹技術の開発や適合開発の機能を集約した「BEV開発センター」の新設と、日本本部をアジアや南米などともに「統合地域本部」に集約したことだ。ホンダは昨春にも大幅な組織改正を行ったばかり。わずか1年で再び体制を変える狙いは、EVシフトのさらなる推進にある。

 「完成車の開発はガソリンもEVも一緒にやっていたが、これではEVに振っていくことが難しかった」。4月1日付で代表執行役副社長兼最高執行責任者(COO)に昇格する青山真二取締役は、改正の背景をこう説明する。

 ホンダは2022年4月、EVやソフトウエア、モビリティサービスの事業化を加速させるため「事業開発本部」を設立した。EV開発では「エネルギーシステムデザイン開発統括部」を事業開発本部内に置き、電動技術の開発を進めてきた。この体制は、全固体電池や「eアクスル」の開発加速、電池メーカーとの協業など、一定の成果を出したものの、開発技術を完成車に落とし込む「適合開発」は事業本部の四輪事業という別組織が担っており、商品化へのスピードには課題があった。

 このため、今回の組織改正では、事業開発本部を「電動事業開発本部」に改称するとともに、傘下にEV開発に特化したBEV開発センターを新設。基幹技術と完成車の開発機能をまとめ、迅速に商品化までこぎ着けられる体制を目指すことにした。

 もう一つの目玉が、日本本部を統合地域本部に集約したことだ。現在は安部典明執行役常務が日本本部長を務めるが、組織改正後は日本事業専任の役員はいなくなり、タイの生産子会社で社長を務める高倉記行氏が執行職として日本事業を統括する。

 ホームマーケットである日本事業を事実上〝格下げ〟する思い切った判断の背景にあるのもEVシフトだ。青山取締役は「これまでの75年間は日本で手がけた開発、生産、販売を海外にコピー&ペーストして地域を拡大してきた歴史だ。しかし、今は地域を集約し、良いEVやFCVを作る潮目になった」と話す。

 新車販売台数が米国や中国の3分の1程度になっても、これまでは日本を主要市場の一つに位置付けてきたが、急激なEV化とともに主戦場は米国と中国へ完全に移った。今回の組織改正では、日本やアジア、南米といったEV普及が遅い市場を一つの統合地域と捉え、商品開発や販売戦略を効率化する。

 日本本部の廃止に販売会社からは驚きの声も聞こえてくる。ただ、ホンダ自動車販売店協会の髙田靖久会長は「少し寂しい気はするが、悲観的な思いはない」と語る。「電動化、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に対する本気度が見える組織変更」(同会長)は、将来の日本事業の強化にもつながるためだ。

 ホンダは今後、中国など海外工場で生産したモデルの日本導入を増やす見通しで、統合地域本部への移行が、商品ラインアップの拡充につながる可能性もある。

 ホンダは20年に本田技術研究所が持つ機能の大半をホンダ本体に移した後、22年に事業開発本部の新設などで組織を大幅変更した。そのわずか1年後の組織改正だ。「組織がころころ変わると混乱する」(ホンダ関係者)という戸惑いもあるが、それでもEVシフトを加速させるための見直しは「少しでも早くする方が良い」(青山取締役)。例年は2月に発表する組織改正や役員人事を1月に前倒ししたのもこのためという。

 40年に四輪車販売の全てをEVや燃料電池車(FCV)といったゼロエミッション車に切り替える目標を掲げるホンダ。ガソリン車で70年以上の長い歴史を持つだけに、EVシフトを推進する最適な体制を模索している。

(水鳥 友哉)