自動車リサイクル業界はここ数年、使用済み自動車の発生台数減少に悩まされてきた。リサイクル部品の生産を左右する使用済み車の発生量はコロナ禍前に比べると大幅に落ち込んでおり、多くの事業者が「ここまで仕入れが難しいことは過去になかった」と表情を曇らせる。

 自動車リサイクル促進センター(JARC、細田衛士理事長)が毎月発表する月間使用済み車発生量によると、2022年はほとんどの月が20万台前半にとどまった。コロナ禍前の19年は多くの月が20万台後半で、20万台前半になることはほとんどなかった。22年9月以降は3カ月連続で21万台となるなど、厳しい状況が続く。一方、今秋以降新車の登録台数が回復の兆しを見せており、「23年は市場環境が少し良くなるかもしれない」と期待する声もある。

 市場環境が厳しさを増す中、仕入れのルートを見直す動きも広がる。リサイクル業者は伝統的に、ディーラーや整備事業者から多くの使用済み車を仕入れてきた。しかし近年はそうしたルートに加えて中古車オークション(AA)での購入が増えている。また、多くの事業者が「一般自動車ユーザーによる車両持ち込みも増えている」と口にする。使用済み車の発生量全体が落ち込む中、NGP(佐藤幸雄代表取締役、東京都港区)が運営する廃車買い取りサービス「廃車王」の買い取り実績はおおむね横ばい傾向にあるという。会宝産業(石川県金沢市)もユーザーからの持ち込みが増加傾向にあるといい、近藤高行社長は25年の完成を目指す新工場について「自動車ユーザーの皆さんが持ち込みやすいよう、アクセスの良い場所に建設したい」と意気込む。

 22年はさまざまな分野で物価が上昇した年だった。リサイクル事業者にとっては部品を梱包する段ボールの価格や運送費、電気料金などの値上げが経営を圧迫した。これらの価格は今後さらに上昇する可能性があり、多くの事業者から「どこまで上がるのか」「特に運送費の上昇は影響が大きい」(日本自動車リサイクル部品協議会の佐藤幸雄代表理事)などの声が上がる。リサイクル事業者の経営体力が問われる事態となっており、特に小規模事業者の経営拡大意欲をそぐことが懸念される。

 一方、さまざまな価格の上昇は、リサイクル部品の市場拡大にとって追い風となる可能性がある。相次ぐ値上げで消費者が積極的な出費に慎重となる中、新品部品に比べて低価格なリサイクル部品の注目度が高まることが考えられる。持続可能な社会づくりへ二酸化炭素(CO2)の排出量削減が求められる中、リサイクルへの関心も高まっている。自動車リサイクル業界は23年も環境負荷の低さと低価格を広く訴え、厳しい市場環境に挑んでいく。