整備士不足が深刻化する中、工業高校生への期待は大きい(ディーラーによる出張授業の様子)
外部人材の活用を検討する学校も多い(写真は都立総合工科高校)

 工業高校の自動車関係学科で、教員の確保が課題となっている。各校に在籍している教員の平均年齢が上昇傾向にある一方、若手教員の採用難が生じているためだ。自動車の整備技術などを学ぶ生徒の成長には、優れた教員による指導が欠かせない。しかし、少子高齢化が進む中、新たな教員の確保は容易ではないのが実情で、各校は対策に頭を悩ませている。

 「自動車系学科の入試倍率はそれなりに高いが、教育では定年を迎え再雇用となった教員に頼る部分が大きくなっている」―。全国工業高等学校長協会(全工協)の理事長を務める東京都立六郷工科高校(大田区)の福田健昌統括校長は、教育体制の現状を明かす。新たな教員を確保できなければ、さらに指導者が減りかねない。このため、教員免許を持たない人でも学校で教えることができる「特別非常勤講師」制度の活用などを念頭に「自動車メーカーなどで、ものづくりを経験した人を招き、教えてもらうことも必要ではないか」と、外部の人材を積極的に活用していくことも視野に入れている。

 機械・自動車科を持つ都立総合工科高校(世田谷区)も今年度、同様の取り組みを行う。職業能力開発関係の団体から整備の経験があるベテラン人材を学校に招き、豊富な経験を通じて培った知見を生徒らに伝えていく計画。両校とも足元で不足しがちな教育体制を外部の力で補う狙いがある。また、さまざまな人から教えを請う機会を増やすことで、何かを人に教える仕事に興味を持つ生徒を増やし、新たに教員を目指す人材の創出にも役立てる狙いもありそうだ。

 ただ、高校の工業科の教員は、大学で工学系の科目を専攻した人が多い。自動車産業でも自動運転や電動化などの技術開発が激化している中、工学系専攻の学生に対する企業の需要は大きくなっている。優秀な学生の獲得をめぐる企業間の競争は熾烈となっており、教員資格を取得した学生でも、自動車や部品メーカーなどに就職するケースが珍しくないという。東京都の教員採用試験で高校工業科のうち機械系・電気系の応募者数が2016年度の54人から22年度は25人まで減少したことも、こうした事態を裏付ける。この傾向は以前から見られていたものの、都立総合工科高校の嶋村晃校長は「近年はさらに厳しさが増している」と表情を曇らせる。

 また、教員確保において、自動車系学科の特有の難しさもある。整備技術を生徒に教える場合、工業科の教員免許に加えて自動車整備士の国家資格を取得していることが望ましい。しかし、どちらの資格もすぐに取得できるものではなく、採用時に両方の資格を持っている人は少ない。このため、教員として働きながら養成施設に通い整備士の資格を取得するケースが目立つ。授業や部活動の顧問など日常業務をこなしながら学ぶことも多い。教員の体力的、経済的な負担が非常に大きいのも問題となっており、対策が必要となりそうだ。

 全工協としても、新たな教員の確保は喫緊の課題に位置付ける。高校工業科の教員養成課程を設置している大学では現在、高校の普通科卒の割合が半数程度を占めているケースがあるという。普通科出身の学生が教員を目指す場合、出身高校とは異なる工業高校で教育実習を受けるケースが出てくる。教育実習は出身高校で行う慣例が社会的に定着している中、全工協は「卒業生ではない大学生を積極的に受け入れるよう会員校に呼び掛けている」(福田理事長)という。幅広く教育実習生を受け入れる環境を整え、普通科出身の学生も安心して高校の工業科の教員を目指せるようにする狙いだ。

 自動車整備士の人手不足が深刻化する中、工業高校の自動車系学科の生徒に対する整備事業者の期待は大きい。生徒自身も「卒業後は専門学校に進み、一級自動車整備士の資格を取りたいと話す学生が増えている」(都立総合工科高校の笹平篤生主幹教諭)と意識が高まっている。学習意欲が旺盛な学生の成長を促すためにも、早期に教員の質や人数を増やすことが求められそうだ。

(諸岡 俊彦)