独自システムの構築でエアーコンプレッサーの電力使用量は半減以下へ
前野嗣郎代表

 「エネルギーシフトでは中小企業に希望がある」。この確信のもと、化石燃料にほぼ頼らない工場を実現しているのが前野モータース(岩手県葛巻町)の前野嗣郎代表だ。

 2015年11月、前野代表はかねてから念頭の岩手県中小企業家同友会が主催するエネルギーシフト欧州視察ツアーに参加、あらゆる中小企業の取り組みを学んだ。「エネルギーシフトに向けた考え方の時間軸が長く、次世代への配慮が印象的だった」と振り返る。

 同社が基盤とする葛巻町の人口は6千人規模で、「ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」を標ぼうする。同町にはディーラー店舗はないが、自動車整備事業者が6社共存する。「葛巻町らしい取り組みを自社で始めたい」との思いを温めていた前野代表は、欧州視察を契機に自社のエネルギーシフトの実践に着手した。

 欧州視察の翌年、岩手県の省エネルギー診断で自社のエネルギー消費量を可視化し、これを基に省エネ、脱炭素に必要な設備投資を行った。

 具体的には、水銀灯や蛍光灯のLED化に、作業ストールごとのスポット照明および可変型位置調整機能付き照明の導入など、作業効率向上と省エネを両立させる仕組みを構築した。また灯油で稼働していた洗車用の温水ボイラーを、夜間電力で稼働する自然冷媒ヒートポンプ給湯器のタンクから加圧ポンプで給湯する独自システムに変更した。エアーコンプレッサーは、エアータンク導入と倍圧機活用でコンプレッサーの吐出圧力を低減させるシステムを構築し、使用電力の大幅削減を可能にした。事務所の給湯も、輸送にガソリンを使うLPガス方式から電気式に変更し、効率を高めた。

 矢継ぎ早に自社のエネルギー転換を進めてきたが、課題も見え始めた。「自社工場の電力使用量は電力会社のサイトで簡単に確認可能で、明確なデータをすぐに入手できるが、省エネを実践する際には従業員の意識改革が不可欠で、時間がかかる。またエネルギー使用量について、全社での使用量は把握できても、社内の各施設や部門ごとの使用量の内訳が不明なのが難点だ。エネルギー使用量は仕事量に左右されるため、省エネ目標のために業務量を抑えるわけにもいかない」(前野代表)。

 今後、エネルギー使用状況のさらなる詳細な把握、業務効率改善、冬季のエネルギー再利用などを検討課題に掲げる。 

 〈受賞者コメント〉

 前野嗣郎代表

 賞をいただくのはまだ早すぎる段階だが、エネルギーや二酸化炭素削減に与える影響は、大企業よりも中小企業の方がポテンシャルが高い。石油に頼らない脱炭素に関して、地方の伸びしろは大きい。地域の農業や酪農といった異業種との垣根を越えて、地域課題をビジネスで解決する仕組みを構築していきたい。

 「省エネ」から「小エネ」、さらに「創エネ」からビジネスとして脱炭素で成果を挙げる「商エネ」には何十年もかかるだろうが、共感してもらえる人の輪を広げることで業界内にウエーブを生み出したい。

(長谷部 万人)