市販カーナビゲーション(カーナビ)メーカーが、コネクテッドや自動運転をはじめとした自動車の変革を見据えて製品開発を活発化している。車載機器の老舗パイオニアは、独自の人工知能(AI)技術によって画面を使わず音声だけの道案内、操作、情報検索を可能にした「声で運転を新しくする商品」(矢原史朗社長執行役員)を投入した。その一方で、複雑になった機能をシンプルな経路案内に絞った製品を20年ぶりに投入する企業もある。市販カーナビには、ナビゲーション機能のあるスマートフォン(スマホ)の普及やスマホと連携可能なディスプレーオーディオ(DA)の搭載拡大などで将来を危ぶむ声がある。しかし、各社は市販カーナビ独自の先進性や汎用性を今一度追求し、さらなる成長を目指している。

(前野 翔太)

明確な特徴づくり

 経路案内の技術的な熟成が進み「2DIN」サイズの商品が中心となった2000年代半ば以降、市販カーナビでは大画面化や、スマホのような操作性の実現など、新たなアイデアの模索が始まった。ただ、特に上級タイプでは、コネクテッドをはじめとした技術を取り込むスピードを速めた自動車メーカーの純正品に対する〝新しさ〟をどのように打ち出すべきか、方向性が見えにくくなってきた。

 こうした中、1990年に市販業界初のカーナビゲーションを製品化したパイオニアが、満を持して投入した新製品が「NP1」だ。「会話するドライビングパートナー」をテーマに、あたかも道案内の上手な人が助手席にいるかのようなナビゲーションにこだわった。ドライブレコーダー機能も備える。

 音声による経路案内はこれまでもカーナビで利用されてきたが、画面での案内の補完にとどまりがちだった。新製品はドライバーが画面を気にする必要がなくなるほど高レベルな音声案内に挑み、純正品を含む他製品とは一線を画す明確な特徴を打ち出した。

 同社がクルマの情報化時代をにらみ、ドライバーが簡単に豊富な情報を操るためのツールとして開発してきたモビリティ用のAIプラットフォーム「パイオマティクス」を初めて市販商品で形にした。画面なしでの操作、経路案内によってその実力の一端を示した。NP1では、地図や観光案内などの情報をクラウドから得るため、サブスクリプションの通信プランを用意して利用料の負担感を抑えることにした。

 「パイオマティクスはオープンエコシステムを前提に開発した」(矢原社長執行役員)ため、パートナー企業と連携してどんどん機能を進化できるという。新しいAIプラットフォームを海外や二輪車向け製品にも展開して「再上場を狙う」(同)と述べ、この技術に懸ける意気込みを隠さない。

原点回帰で需要吸収

 JVCケンウッドは、多機能化に伴って操作が複雑になりがちなカーナビの「使いこなしが面倒」というユーザーの増加をにらみ、道案内を重視した製品の再投入に踏み切った。新製品「ココデス」は後付けが簡単なPND(ポータブルナビゲーションデバイス)。同社のPND発売は約20年ぶり。ラストワンマイルを担う運送事業者や輸入車、旧車などのニーズ吸収を狙う。

 PND市場では、三洋電機が1990年代半ばに発売し、現在はパナソニック・ブランドが受け継いだ「ゴリラ」が定番商品となっている。その牙城に挑む。

 JVCケンウッド国内営業部営業企画グループの南拓司グループ長は「マーケット全体で見た場合、市場は小さいものの需要は底堅い。PNDを求めるユーザーの新しい選択肢として役立ちたい」と、定番商品に並ぶ商品に育てていきたいという。

 これに対しパナソニックオートモーティブ社インフォテインメントシステムズ事業部市販・用品ビジネスユニットの荻島亮一ビジネスユニット長は「スマホアプリとの戦いがあるものの、ナビ専用機としての価値を評価していただき、リピーターも多い」と、根強い固定客に支えられる強みを生かしてさらなる需要開拓を目指す。