カワサキはEV、水素燃焼、HVと多彩な選択肢で脱炭素化を目指す(写真は開発中のHVモデル)

 二輪車大国の座は中国やインドに譲ったものの、世界シェアでいまだ過半(50・2%)を占める日本の二輪車メーカー。足元の需要は堅調だが、川上ではカーボンニュートラルの要請が加速し、川下では電動キックボードや超小型モビリティなど移動様式が多様化し始めた。こうした環境変化を乗り越え、今後も世界市場で存在感を保てるか。4社の成長シナリオを探った。

 2035年までに都内の二輪車販売(新車)をすべて非ガソリン化する方針を掲げた東京都。ヤマハ発動機の日髙祥博社長は昨夏、小池百合子都知事に「全力で取り組む」と話す一方で「環境優位性が高いガソリン二輪車への新たな規制導入はさまざまなコスト上昇につながり、ユーザー便益の毀損(きそん)を生じる」と懸念も示した。

 環境や安全の規制は絶えず強化される。二輪車も2ストローク燃焼やキャブレター(気化器)を捨て、コスト上昇に耐えて何とか追随してきたが、ついに脱炭素を求められ始めた。日本が出す二酸化炭素(CO2)のうち、二輪車排出分はわずか0・074%。世界的にも似たようなものだが、だからと言って例外扱いされるとは限らない。ホンダの野村欣滋常務執行役員(二輪事業本部長)は「25年以降は二輪車も四輪車の規制や方針にハーモナイズ(調和)していく」と身構える。

 日本の二輪車メーカー各社はまず、スクーターを中心に電動化を進める構えだ。ヤマハ発は今春、125cc級の電動二輪車を欧州と日本に投入する。ホンダは3車種の法人向け電動車をラインアップし、スズキも25年度までに電動スクーターをアジアや日本で発売する計画だ。航続距離や充電時間などを左右するバッテリーを交換できるようにもし、主に都市部で展開する。

 「ファン系」と呼ばれる中・大型二輪車の電動化はなお手探りだ。四輪車と比べ車体の小さい二輪車はバッテリー搭載量が限られる。川崎重工業は昨秋、ハイブリッド機構を積んだ二輪車の試作車を披露したが、他社は「バッテリーは確かに小さくなるが、部品点数や重量増の割にCO2排出削減効果が取りにくい」(ホンダ)とも指摘する。

 完全な電動バイクも課題が山積みだ。昨年暮れに電動二輪ブランド「ライブワイヤー」を分社化すると発表した米ハーレーダビッドソン。30年に電動バイクの年間販売台数を19万台に増やす計画を掲げるが、足元の世界販売実績は400台に満たない。カワサキモータースの伊藤浩社長は、電動バイクについて「『Z900』と比べると重さは2倍、航続距離は3分の1、そして値段は3倍になる。これが今のバッテリーとモーターの実力値」と明かす。同社も25年までには10車種以上をそろえるが、「今後10年、おそらく20年は大型二輪車のEV(電気自動車)がメインストリームになることはない」(伊藤社長)とも話す。

 「『絶対やる』という信念に共感したし、エンジニアに自信も与えてくれた」。昨秋の鈴鹿サーキット。トヨタ自動車の豊田章男社長らとともに会見に臨んだ川崎重工の橋本康彦社長は興奮気味にこう語った。トヨタが呼びかけた水素燃焼の共同研究は結果的に二輪車4社のプロジェクトになった。ただ、電動化にしろ水素燃焼にしろ、製品化までのハードルはなお高い。各社は自社の脱炭素計画や世界の規制動向、技術や市場の変化をにらみつつ、かつてない難題に挑む。