世界初のレベル3を実現した「レジェンド」
岸田新内閣でもデジタル化戦略を引き継ぐ

 2022年は、自動運転をはじめとする先進技術の高度化に向けて重要な一年となりそうだ。昨年はホンダが世界初となる自動運転「レベル3(特定条件下における完全自動運転)」の認証を取得した「レジェンド」を発売。日本の技術水準の高さを世界に知らしめた。今後はもう一つ上の「レベル4(自動運転車・限定領域)」の実用化において、激しくなっている海外勢との技術競争に日本が勝ち残れるかに注目が集まる。レベル4で主導権を握れなければ、日本の自動車産業の国際競争力にも影響する。政府は今年、研究開発の支援強化を加速させ、早期の実用化を後押しする考えだ。

 21年は自動車の「デジタル化」と「グリーン化」に力を注いできた菅義偉前首相が退陣。代わって岸田文雄首相による新内閣が発足した。岸田内閣でも日本経済を支えている自動車産業の成長に向けたアプローチに変化はない。岸田首相は自身肝いりの「成長」と「分配」を実現するため「新しい資本主義実現会議」を新設。ここで早急にまとめた「緊急提言」では、日本のデジタル化を加速するため「デジタル田園都市国家構想」を盛り込んだ。この中には自動運転による移動サービスを認める新たな制度の創設を目指し、今年の通常国会に関連法案を提出する計画となっている。

 自動運転の関連法を整備する背景には、自動運転に対する社会や国民からのニーズが高まっていく一方で、現行法では新たな技術やサービスへの対応が想定されていないためだ。少子高齢化により、地方や過疎地では高齢者の移動手段の確保が厳しくなっていく。加えて、公共交通を支える人材不足も慢性的な課題となっている。円滑なモノの行き来を支える物流も同様の問題を抱える。これらを自動運転システムによって解決するため、新たなサービスが生まれやすい基盤を構築していく。政府はシステムの性能だけでなく、遠隔監視や緊急対応など安全対策にも万全を期す構えだ。

 こうした新たな試みを早期に実用化していくため、自動車メーカーやサプライヤー、研究機関などは自動運転システムの高度化に心血を注いでいる。車両周辺の状況を認識する精度を高めているほか、よりきめ細かな車両制御が可能になるよう努力を続けている。政府や関係省庁も、自らの研究組織なども活用し、こうした取り組みを強力に後押ししている。産学官の連携による活動の輪を今年も広げ、新たなイノベーションの芽を相次いで生み出していく。自動運転時代でも日本の自動車産業が引き続き世界をリードしていける強固な技術基盤の確立を急ぐ。

 また、国土交通省では新たにレベル4の法規要件の策定に向けた取り組みを開始する計画。いかに技術レベルを高めても、想定外の事象すべてに対応することは難しい。自動運転システムがどこまで安全を保障しなければならないか、この範囲の特定に向けた調査を始めたい考え。加えて、仮に自動運転車が歩行者か、対向車のどちらかとの事故が避けられないと判断した場合、どのように制御すれば良いかもシステム設計上の大きな課題となる。国交省では国民や社会の理解度や受容性の検証を進め、レベル4のシステムのあり方を導き、普及の環境整備にもつなげる狙いだ。

 日本のリードを保つため、国際標準づくりにも力を注ぐ。日本は国連の「自動車基準世界フォーラム(WP29)」において、レベル3関連でいくつかの国内基準を国際標準化した実績がある。さらに、昨年はWP29の下に設置された「自動車のサイバーセキュリティに関するワークショップ」で、交通安全研究所が国連欧州本部と共同で事務局を務めた。WP29の公式な会議体で、各国の機関が事務局となる例は極めて珍しい。日本のこれまでの世界への成果と貢献が評価された格好で、今年もこうした活動を加速させる。

 政府は25年をめどに、高速道路などでのレベル4の実用化を実現する目標を掲げている。現段階では計画通り進捗していると判断しているが、欧米だけでなく中国などの新興勢も本腰を入れて自動運転の開発を進めている。こうした勢力に後れを取らないためにも、今年の産官学の取り組みは極めて重要になるのは間違いない。