電池内製から撤退・売却

 日産は初代リーフ投入時、サプライヤーに対して「これからはゼロエミッション車であるEVの時代」と説いて、EV関連部品や素材の投資を求めてきた。結果的にリーフの販売は低迷し、素材メーカーの一部は電池材料工場を閉鎖して事業から撤退した。日産はEVの普及を煽ってきただけに、EVシフトによって大きな影響を受けるサプライヤーの視線を意識し、簡単にEVオンリーを打ち出せないでいる。

 日産がEVシフトに慎重なもう一つの理由がEVの心臓部であるバッテリー調達に懸念があることだ。EVシフトを裏付けるためには、具体的なバッテリーの調達方法を示さなければ信憑性を持たれない。オンリーEVを打ち出している欧米の自動車メーカーは電池工場の新設を含めて、電池の調達体制も併せて公表している。

 日産は1990年代にリチウムイオン電池の研究に着手するなど、ライバルと比べても電池関連で多くの知見を持つ。初代リーフの開発ではバッテリーメーカーに電池の調達を打診したものの、使用環境が厳しい車載用電池に関する日産が示した基準が高く、電池メーカーは尻込みした。このため、日産はNEC、NECエナジーデバイスの協力を得て車載用電池を製造する共同出資会社オートモーティブエナジーサプライ(AESC)を設立し、事実上、電池の内製化に踏み切った。

 その後、ボッシュが車載用電池セル生産から撤退を決め、GSユアサとの電池合弁事業を解消するなど、リチウムイオン電池の採算確保が難しくなったことを受けて、日産は電池関連の戦略を変更した。電池調達の自由度を上げるため、電池の内製化から撤退する方針を決定し、再生可能エネルギー事業を手がけるエンビジョンにAESCを売却した。

 ところがEVシフトの本格化で、電池の調達先確保が自動車メーカーにとって重要度を増している。GMは韓国のLG化学、フォード・モーターが韓国のSKイノベーション、フォルクスワーゲン(VW)やボルボがスウェーデンのノースボルト、トヨタがパナソニックなど、電動化を推進する自動車メーカーは電池メーカーとの連携を強め、電池を確実に調達する体制を整えている。

 日産は英国工場をEV生産拠点にシフトする計画「EV360ゼロ」を策定したが、この計画にはエンビジョンAESCが10億ポンド(約1500億円)を投じて工場隣接地にEV向けバッテリーを製造するギガファクトリーを新設することが組み入れられている。日産は現在もエンビジョンAESCの株式20%を保有している。ただ、今後も日産が求める量の電池をエンビジョンAESCから供給してもらえるかは不透明だ。日産の計画では、パートナーと協力して26年度までにグローバルでの電池生産能力52ギガワット時、30年度までに130ギガワット時を確保することを掲げるものの、具体的な電池調達方法は明かしていない。仮にAESCを売却していなければ、日産は裏付けのあるEVシフトを打ち出すことができた。日産にとって電池メーカーを抱えることは大きな価値になったはずだ。

 早過ぎたEV投入や電池内製からの撤退という過去の経営判断によって、本来なら市場をリードできたはずのEVシフトから一歩引いた形となった日産。EVや電池に関する先行者利益を得るためにも、脱炭素化が声高に叫ばれる今こそ、大胆な戦略を打ち出すべきではないだろうか。

(編集委員 野元政宏)

(2021/12/20修正)