全固体電池を搭載する新しいEVプラットフォームのイメージ

 10年以上前に量産型の電気自動車(EV)をライバルに先駆けて市場投入しながら、カーボンニュートラル社会実現に向けて世界で加速するEVシフトの波に乗り遅れていた感のあった日産自動車が電動車戦略を本格化する。長期ビジョン「ニッサンアンビション2030」で、今後5年間に電動車関連に2兆円もの巨額投資を実行し、EVラインアップを拡充するとともに、EV普及の鍵であるバッテリーの開発・生産体制を強化することを掲げた。カルロス・ゴーン元会長の一連の不祥事の後始末に追われてきた日産だが、経営再建のめどがついてきたことから、経営を「守り」から「攻め」に転じる。

 「未来に向けてギアをシフトする」―。29日の長期ビジョン発表後の報道機関向けオンライン記者会見で、日産の内田誠社長兼CEOは、自動車業界で加速する電動車開発競争に復帰することを打ち出した。

 日産は、次世代環境対応車としてハイブリッド車(HV)が脚光を浴びていた2010年12月、量産型で初のEV専用モデルとなる「リーフ」を市場投入し、先進国を中心にEV市場の開拓に注力してきた。しかし、航続距離が短いことや、充電インフラが整備されていないこと、車両価格が高いことなどから販売は低迷、既存の自動車メーカーでEV市場参入に追随する動きもほとんど見られなかった。

 大きな転機となったのがEV専業のベンチャーとして発足した米テスラの躍進と、世界的な環境規制の強化、フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車不正事件だ。特に15年に各国政府が合意したパリ協定が発効すると、世界中で脱炭素社会に向けた機運が高まり、自動車メーカー各社がEVシフトを本格化。その中でEVで先行者利益があるはずの日産はゴーン元会長が推進してきた拡大戦略の失敗やブランド力の低下で業績が悪化。20年3月期、21年3月期と2期連続で巨額赤字を計上し、EVへの投資どころではない状態が続いた。

 VWグループやゼネラル・モーターズ(GM)などの世界の自動車メーカー大手や、テスラ、中国地場系EVメーカーが相次いでEV関連への巨額投資とEVモデルの拡充を公表する中、日産は沈黙を貫いてきた。それが今期、固定費削減や販売の量から質への転換を進めた効果で黒字化する見通しとなったことからEV領域で巻き返しを図る。

 日産がEVシフトへの出遅れを取り戻すための戦略として注力するのがEVの心臓部である電池だ。特に次世代車載用電池の本命とされている全固体電池の開発に注力する。全固体電池は電池内部に固体電解質を使用する。動作温度域が広く、航続距離を伸ばすため、高エネルギー密度化した場合の発火リスクが低く、電池のサイズを小型化できる。実用化の課題はコストや材質、製造技術確立などだ。

 日産は電動化戦略の柱として全固体電池を28年度に実用化することを掲げた。全固体電池のコストを1㌔㍗時当たり75㌦(約8500円)と、現在のリチウムイオン電池より安い価格で実現し、その後には65㌦(約7400円)にまで引き下げ、ガソリン車と同等価格のEVを開発する。日産が他社に先行して全固体電池の実用化に自信を示すのは「30年間にわたる電池開発の経験と、リーフで安全な電池を実用化してきたから」(内田社長)という。

 ただ、日産の電動化戦略の先行きに不安もある。日産はリーフを実用化する際、電池メーカーから車載用電池の供給を断られたため、NECと電池の共同出資会社を設立し、内製した。その後、競争力の高い電池の調達先を広げるため、中国で再生可能エネルギーを手がけるエンビジョングループに売却したが、風向きが変わった。

 日産は電動化に向けて26年度までに52㌐㍗時、30年度までに130㌐㍗時の電池調達能力を確保する。電動車シフトで自動車メーカー、電池メーカーによる電池争奪戦が繰り広げられる中、日産がこれだけの電池を安定調達できるかは不透明だ。今後、虎の子になるはずだった電池合弁会社を売却したツケを払わせられることになるかもしれない。

(編集委員 野元政宏)