デジタル化時代に合う制度に

 多くの半導体を搭載して先進技術を実現するなど、デジタル化している自動車なら検査をもっと効率化できるはずだ。例えばトヨタをはじめ、ホンダ、日産自動車など、国内でも、インターネットなど、外部と接続するコネクテッドカ―が本格的に普及してきている。自動車メーカーは許可を得たユーザーのコネクテッドカーから車載データを取得することで、車両ごとのコンディションを把握できる。リアルタイムのデータを取得することで、故障予知も可能となり、道路上で故障して停止することを防げる。より多くの車載データが集まれば、故障予知の精度も向上する。

 安全で安心なクルマ社会の構築に向けて点検・整備が重要とするなら、急速に進化するデジタル技術を活用することが、人手不足の問題が深刻化している整備業界の問題解決の助けになる。しかし、現状、デジタル時代に適した制度に見直そうとの機運は高まっていない。

 制度の見直しが無理なら人員を確保するしかない。その解決策と見込まれるのが電動化に伴って余剰となる人材の活用だ。カーボンニュートラル社会の実現に向けた機運が高まる中、欧米の自動車メーカーを中心に、電気自動車(EV)シフトが本格化している。欧州では35年にハイブリッド車(HV)を含めて内燃機関車の新車販売の禁止を打ち出した。メルセデス・ベンツやボルボ、ゼネラル・モーターズ(GM)はガソリン車・ディーゼル車から撤退し「EVオンリー」になることを宣言。国内でもホンダが40年までに販売する新車をEVと燃料電池車のみにする方針を決めている。

 EVシフトが本格化した場合、懸念されているのが自動車産業の雇用問題だ。EVは一般的なガソリン車と比べて部品点数が3分の2から半分程度に減る。このため、製造ラインの工数が減り、ライン従事者も現在よりも少なくて済む。エンジンや排気系、燃料系の部品などを製造している部品メーカーを中心に仕事がなくなり、自動車関連企業から失業者が増えることが懸念されている。日本自動車工業会の豊田章男会長も「輸出で成り立っている日本にとってカーボンニュートラルは雇用問題でもある」と危機感を隠さない。

 一足早くEVシフトが始まった欧州では、早くも自動車関連企業の雇用問題が現実化している。自動車産業が基幹産業のドイツではEVシフトで2030年に21万人の雇用が失われると指摘されている。このため、政府と民間企業が連携して自動車関連企業で働く従業員に電気・電子関連技術を習得できる研修を実施するなど、EV時代を見据えて人材の流動化を支援している。

 EVシフトによって100万人の雇用が失われるとされる日本では、雇用問題への懸念が広がるものの、解決に向けた具体的な動きは表面化していない。EVシフトによる雇用の弊害を指摘する声もあるが、慢性的に整備士が不足している整備業界で吸収できれば、自動車関連企業の雇用と整備士不足という業界が抱える2つの課題の解決につながるかもしれない。政府も自動車関連企業も今のうちに将来の動向を見据えて、業界全体を見渡した取り組みが求められる。

(編集委員 野元政宏)