三宅康史(みやけ・やすふみ)第57回学術講演会会長(帝京大学医学部救急医学講座教授 同医学部附属病院高度救命救急センター長)
第57回大会は50件超の発表やセッションを展開

 日本交通科学学会(JCTS、有賀徹会長)は、10月1、2日にオンラインで「第57回日本交通科学学会・学術講演会」を開催する。「交通事故を科学の力でなくす学会~躍進の鍵:医工連携~」をテーマに医療、理工学、自動車メーカー、行政などの専門家らが交通安全の高度化に向けた取り組みと提言を、50件超の成果発表やパネルディスカッションを通じ発信する。JCTS副会長で今回の講演会会長を務める帝京大学医学部の三宅康史教授にポイントを聞いた。

(有馬 康晴)

 -JCTSが活動の重点に置く医工連携をあえて開催テーマに挙げた理由は

 「交通科学、交通安全に関して自動車メーカーや理工系の専門家が参加する学会は他にもあると思うが、非常に専門的な話ばかりで、我々医療系が入る余地がない。逆に医療系にも病気の予防や治療などの学会が山ほどあるが、そこに理工系やメーカーの研究者が入ってくることはまずない。また当学会には事故でお世話になる保険会社の方や弁護士、事故を解析する警察関係者などさまざまな分野の専門家が所属する。お互い専門外のことは難し過ぎるからこそ、ともに共通言語というか相手にわかりやすく議論を深めることが必要だと意識してきた」

 「知りたいのだけれどわからない、相手の学会の敷居が高すぎて『無理です』というところをうまく混ぜ合わせるというか、実際にこういうところが知りたいのだけれど『全然お角が違うので』ということをここ(学術講演会)に出して、いわゆるセッションとして組んで、相手のことが分かるようにする。それが当学会と学術講演会ならではの役割という意図で、今回のテーマにさせてもらった」

 -〝共通言語〟づくりで意識したことは

 「講演者には、自分たちが日頃から使う専門用語を平易な言葉に置き換えることなどをお願いした。セッションは、医療者と理工系の両方が一緒に参加してもらえるよう組み立てを工夫した。最先端のことをこの学会で発表してもらうのは大事だが、各分野の専門家にしかわからない内容はそれぞれの学会で発表してもらった方がいい。『相手にとっては難しいだろう』という他の分野の方への配慮が欠かせない。今までの学術講演会と変わりがあるわけではないが、講演会会長として改めて方向付けを意識した」

 -特徴的な講演テーマは

 「今回、特に面白いのは自動車教習所の方にセッションを組んでもらったことだ。自動車教習は実は医療と深い関係がある。脳卒中を起こした方や怪我をされた方、車いすを使用する方、先天的な麻痺のある方などを含めて車の運転や免許を再取得するために、どういう風にリハビリテーションを進め、どういう手順を踏めばよいのかなどを取り上げる。それにはリハビリの先生も関係しなければいけないし、教習所の方も当然、大事になってくる」

 「また、くも膜下出血などで運転中に意識を失い事故を起こすことの危険性や予防、ペダルの踏み間違い、ドクターへリ、新型コロナウイルス感染症の患者を搬送する『エクモカー』、科学警察研究所の解析・鑑定技術など最新のトピックスも紹介する。私は小児の車内放置(置き去り)事故の防止をテーマに講演する。ぜひ自動車メーカーの方などに聞いてもらい、置き去り防止の技術開発のヒントにしてもらえれば嬉しい」

 日本交通科学学会(JCTS)は医療、工学、自動車メーカー、行政など幅広い分野からトップレベルの専門家・識者が参加。それらの知見を融合して安全な交通社会づくりを支援することをねらい半世紀以上、活動を展開している。

 「第57回学術講演会」は10月1、2日のオンライン講演のほか、一般公演を10月末までオンデマンド配信する。詳細、参加申し込みはQRコードのアクセス先まで。