車体部品まで専用設計に

こうした違いを出すため、初代では前後サスペンションの特性と電動パワーステアリング(EPS)のアシストトルク定数だけにとどまっていた個別の部品・設定を、エンジン特性(なまし制御定数、トルク特性)、車体結合(フロントハウジング素材、前後スタイビライザー径と取付構造、リヤトレーリングアームブッシュの硬度)など11項目に広げた。しかも「最初に差別化ありき」ではなく、試走と評価を繰り返して必要性を吟味したという。

例えばフロントハウジングと呼ばれる車体部品。GR86は鋳鉄製を、BRZはアルミ製を使う。バネ下重量を考えるとアルミ製が良さそうだが、ガズーレーシングカンパニーの永田孝明主幹は「鋳鉄は路面からのインフォメーションがステアリングに伝わりやすい」と説明する。前後の重量配分上も鋳鉄がベターと判断したという。

一般的な自動車開発では、シミュレーション技術の普及で実地テストの機会が減っている。しかし、GR86/BRZの開発では、走らせた結果を重視した。理論値はわかるが、スポーツカーという特性上、感性も無視できないからだ。

このため、両車の違いは一般ドライバーでも体感が容易だ。試乗当日はゲリラ豪雨後で路面は半乾きの状態。速度やシフト位置、アクセル開度などの条件をそろえて同じコーナーに進入したところ、コーナー出口でGR86は容易にドリフト状態に持ち込めた一方、BRZはリヤが踏ん張り、修正舵を当てずにアクセルを踏み込めた。

9年前に発売した初代86/BRZは、合わせて約32万台を世界で販売した。自動車用品やチューニングパーツ市場も盛り上がり、ワンメイクレースも盛んだ。かつては様々なメーカーが手がけていた手頃な価格の4シーターFRスポーツ車。今やGR86/BRZが唯一無二の存在になった。両社のようなアライアンスや新たなビジネスモデルを駆使し、手頃なスポーツカーが世界各地で復活することを願わずにはいられない。