カーボンニュートラルで競争力を高める(元町工場)

 トヨタ自動車が、世界の工場から排出する二酸化炭素(CO2)を2035年までにゼロにする新たな目標を掲げた。排出権取引を併用するとはいえ、フォルクスワーゲン(VW)ら競合を上回る意欲的な目標だ。生産を統括する岡田政道執行役員(チーフ・プロダクション・オフィサー)は「製造方法を見直すチャンスだ」と語る。

 トヨタはこれまで、約50の海外生産事業体を含め、国内外の工場から排出するCO2を50年までにカーボンニュートラル化する目標を掲げていた。新目標の35年は、来年中に「欧州域内」との条件付きでカーボンニュートラルを宣言したダイムラーのほか、VW(30年までに3割減)やBMW(同8割減)を上回る挑戦となる。

 なぜ、このタイミングでの目標前倒しか。岡田執行役員は「もともと内部でもっと早く、グローバルに(CO2削減を)展開していく取り組みを進めていた。世界動向や日本政府の発信を見据えた時、世の中に向けてもより積極的な目標値を掲げて取り組むべきだと判断した」と説明する。

 トヨタや一部のグループ会社には「ショップ軸活動」と呼ばれる改善の仕組みがある。プレスやボディー、塗装など工程(ショップ)ごとに国内外の工場が改善事例を共有する制度だ。トヨタは10年以上前から、このショップ軸活動に環境対応を採り入れている。鋳造に使う「中子」の接着剤を工夫して電力を大量消費する脱臭設備をなくしたり(CO2半減)、塗料に静電気を帯びさせて付着効率を高める(7%のCO2減)などの工夫を横展開し、着実にCO2を減らしてきた。

 ただ、トヨタにとっては日常的な活動で、わざわざ発表するまでもない。手を変え品を変え「環境宣言」を繰り出す他企業と比べると沈黙を保つようにも見えた。「もっと外部に発信すべきだった」(岡田執行役員)との反省が目標の更新につながった。

 トヨタは今後、鋳造や塗装などの工程革新を急ぐとともに、災害対策用として整えたサプライチェーン(供給網)を可視化できるシステム「レスキュー」で、CO2排出の〝見える化〟を進める。投資力に乏しい中小サプライヤーには、自社開発した省エネ技術を供与するなどしてカーボンニュートラル化を進めていく考えだ。

 会見で示したCO2削減のロードマップ(行程表)では「技術革新と日常改善」分が約7割で、残り3割は「再生可能エネルギー、水素利用」「CO2クレジット活用」でカーボンニュートラル化を目指す。懸念はクレジットの購入負担だ。岡田執行役員も「費用としてかなり発生してくるのは間違いない」と話す。手をこまねいていれば、年間3千億円規模の原価改善効果が吹き飛びかねない。

 日本のエネルギー政策が揺れ動く中、トヨタは昨年、定款に「発電ならびに電力の供給及び販売」を加え、再生可能エネルギーをグループへ供給する「トヨタグリーンエナジー有限責任事業組合」も立ち上げた。グループの豊田通商は風力や地熱、バイオマス(生物由来)などの再エネ事業を世界各地で手がける。

 トヨタは、脱炭素への挑戦を「競争力を上げる取り組み」と捉える。設備投資はかかるものの、中子や塗装の改善事例は実際にコストダウンにもつながった。今後も「原価改善で(脱炭素の)原資を捻出していく」(岡田執行役員)。お家芸の原価改善と自前のグリーンエネルギーを組み合わせ、クレジットの購入負担を最小化する作戦だ。電動化戦略と同じように「サステイナブル&プラクティカル(実践的)」(豊田章男社長)な取り組みが続く。

(編集委員 畑野旬)