電動モビリティの普及に向け、着脱式バッテリーへの関心が高まっている。大容量バッテリーが搭載しにくい二輪車では国内二輪車メーカー4社が一致団結。電動二輪車用着脱式バッテリーの相互利用を可能にする標準化に合意した。四輪車では取り外し可能な駆動用バッテリーを採用する超小型モビリティの販売が始まった。着脱式バッテリーは充電ステーションに設置した充電済みバッテリーと交換して使えるなどのメリットがあり、中国では電気自動車(EV)タクシーとしても活用されている。ただ今後の本格的な普及に向けては電動車としてのメリットのみならず、着脱式ゆえの新しい付加価値が生み出せるかが課題となりそうだ。
着脱式の構想自体は以前から様々な議論が展開されてきた。とくにリチウムイオン電池など大容量電池が登場する前や、量産EVが市販化されてからも急速充電器の少なさを補完する手段の1つとして日本で話題を呼んだこともある。
一方、中国では新興EVメーカーの蔚来汽車(NIO)が、「パワースワップ」と呼ぶバッテリー交換サービスを手掛けており、3月末にはのべ200万台目のパワースワップが完了したと発表している。満充電バッテリーへの交換時間はわずか3分だという。
充電時間の短縮につながることは着脱式バッテリーのメリットの1つだ。この点に着目したのが日本の二輪車業界で、ホンダ、ヤマハ発動機、スズキ、川崎重工業の二輪車メーカー4社は3月末、電動二輪車用着脱式バッテリーについて、サイズや通信プロトコル、試験方法などを標準化することで合意した。
二輪車は重量や積載スペースに限りがあり大容量電池を搭載しにくい。それだけに着脱式バッテリーは二輪車の電動化に向いており、4社は2019年以降に標準化に向けた検討を行ってきた。今後は各社で商品化に向けた開発を進めると同時に、国際標準化に向けた動きも展開していくという。
四輪車では超小型モビリティの開発、販売を手掛けるFOMM(鶴巻日出夫CEO、川崎市幸区)が、取り外し可能な駆動用バッテリーを搭載する4人乗り超小型モビリティ「FOMM ONE」(フォムワン)の国内販売を開始した。
通常の充電に加え、これから街中などに設置を進める専用ステーションでのバッテリー交換が可能で、搭載するリチウムイオン電池の総電力量は11.84kWhの性能を持つ。
フォムが取り外し可能なリチウムイオン電池を選択したのは、駆動用バッテリーとしての用途だけを想定していないからだ。近年、自然災害が相次ぎ発生する中で、たとえ避難所生活を送らざるを得ない事態になったとしても、日常生活を送るための非常用電源としての役割をもたせようと考えている。
現在、市販されている電動車にも給電機能は備わっているものの、避難所の中まで車両が持ち込めるわけではない。フォムは必要なときに、必要な場所で、誰でも手軽に電力が使える駆動用バッテリーにすることを視野に入れている。
着脱式バッテリーならではのメリットをどう創出し、訴求するか。フォムの事例はその試金石とも言える。今後、電動車が移動するための自動車としてだけでなく、人々の社会生活を支えるインフラとしてのモビリティに進化するための1つの手段として、着脱式バッテリーを活用することが重要になるかもしれない。