丹波篠山の農家で働く様子

 ダイハツ工業が多様な働き方の実現に向けた取り組みを進めている。生産現場での勤務が体力的に厳しくなった中高年の従業員が農家で働ける仕組みを試験導入したほか、従業員の副業も認める方向で検討を始めた。女性社員の保育士資格取得を支援するプログラムもある。ライフステージの変化に伴って従業員が求める働き方は変わる。一人ひとりの「個」の力を最大限生かせる環境をつくり、競争力を引き上げる。

 ダイハツが働き方改革に大きく舵を切ったのは2012年。従来は学歴などに応じて振り分けていた技能系や事技系といった職種系統を廃止するとともに、職種や年齢などに関係なく成果主義で評価や賃金を決める体系に切り替えた。その後、働き方改革の機運が社会的に高まる中で20年1月には管理本部内に働き方改革推進チームを設置(21年1月に「働き方改革・DX推進室」に改編)。新たな働き方の導入に向けた動きを本格化した。

 働き方改革と一口にいってもテーマは多岐にわたるが、同チームでは多様な人材が働きやすい環境づくりを推進してきた。女性やシニア、外国人、障がい者といった多様な人材の活躍推進はかねて実施してきたものの、自動車技術やサービスの急速な進化などで競争は激化し、「多様な人材一人ひとりが輝けなければ生き残っていくことは難しい」(鳥巣房夫コーポレート統括本部人事室主査)とその重要性が増しているためだ。

 ただ、従業員のニーズ対応と企業の競争力向上を両立した上で多様性を推進するのは難しい。社会的な責任だけで多様性を推進しても企業の競争力が低下すれば働きやすい職場とはいえない。社員の副業を認めるとしても本業に生かせる業界や職種はどこか、生産現場での勤務が難しくなったシニア人材が活躍できる場所はどこか、同社は検討を進めてきた。

 一つの解が「地域・地方」の視点だ。黒豆の生産地としても有名な兵庫県の丹波篠山市。同市の農家で今、生産現場で働いてきた中高年の従業員が活躍している。軽トラックを使用してダイハツが提供する農薬の自動散布サービスに、生産現場で培ってきた従業員のものづくりの技術が生かされているほか、青果の収穫などの手伝いも行っている。農業も力仕事だが、組み立て工程などと比べると従業員の負担は軽減された。このほか、検討を進める社員の副業でも「地域」の視点を重視して副業先を決める考えだ。

 自動車とは全く異なる業界でも、軽自動車の主力市場である地方顧客に近い場所で働けば、顧客の困りごとが実感できる。顧客と同じ目線で感じた困りごとは、市場調査などで顧客から聞き取るニーズよりも企業にとって大きな財産になる。地域で活動できる人材が増えれば企業の社会的価値も自然と高まりそうだ。