政府が温暖化ガスの排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を2050年までに実現する方針を示したことで、自動車業界では電動化の議論が一気に加速した。自動車メーカー各社は世界的な脱炭素社会実現の流れを受けすでに電動化戦略を加速しているが、カーボンニュートラルの実現には産業構造そのものの変革が求められる。コロナ禍による苦境が続く中、日本の自動車産業は電動化の流れにいかに対応していくか。日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)に展望を聞いた。

 ―政府が30年代半ばにも新車販売を電動車のみとする方針を固めた

 「菅義偉首相がデジタル化とカーボンニュートラルを政策の柱としたことは、この国を母国市場と捉えるわれわれ自動車メーカーとして大変ありがたいと思う。自工会としては、50年までにカーボンニュートラルを目指す菅首相の方針に貢献するため全力でチャレンジすることを決定した。ただ、画期的な技術ブレークスルーなしにはカーボンニュートラルの達成は見通せず、サプライチェーン全体で取り組まなければ国際競争力を失う可能性がある。大変難しいチャレンジであり、欧米中同様の政策的、財政的支援を要請したい」

 ―脱炭素は走行時のみならず車両やエネルギーの製造段階も加味する必要がある

 「理解してほしいのは、カーボンニュートラルは国家のエネルギー施策の大変革なしでは達成は難しいということ。日本は火力発電が約77%、再生可能エネルギーや原子力が23%の国だ。かたやフランスは89%が再エネと原子力で火力は11%。例えば日本とフランスで生産するクルマは同じでも、カーボンニュートラルだけ考えるとフランスで作った方が良いクルマということになる。また、『電動化=電気自動車(EV)』とよく報道されるが、乗用車の年間販売400万台をすべてEV化すると夏の電力使用ピーク時に電力不足に陥る。解消には発電能力を10~15%増やす必要があり、原発でプラス10基分、火力発電であればプラス20基分となる。これは国のエネルギー政策そのものであり、ここに手を打たないと自動車業界の今のビジネスモデルが崩壊してしまう恐れがある」

 ―電動化の影響は軽自動車が大きいのでは

 「軽は言わば日本の国民車だ。日本には軽でしか走れない道、相互通行できない道が85%ある。軽の存在、お客さま目線の存在というものを自動車業界が忘れてしまってはダメだ。軽をどう成り立たせるか、どういう電動車とのミックスを達成させるかが、日本の生きる道になる」

 ―昨年はコロナ禍で厳しい一年となったが今年の展望は

 「新型コロナの感染拡大で人々は自粛生活を余儀なくされたが、その中でもリアルな産業である自動車業界では売る方もつくる方もみんなよく頑張って、経済のけん引役になったのではないか。今年は(自動車関連産業就業人数の)550万人が心を一つにして、『もっといい国づくり』に団結して取り組むスタートが切れればと思う」

 ―今秋の東京モーターショーについて

 「各社から若いメンバーが中心に集まって検討を進めている。前回のモーターショーはモビリティという切り口で130万人を超える人がリアルに集まった。このムーブメントをいかにカーボンニュートラルや未来のモビリティといったものにつなげていくかが、次のモーターショーを考えていく一つのポイントになるのではないか」