世界初のレベル3「レジェンド」(現行車)
国土交通省の要請に基づき、車体後部に貼るステッカー

 高速道路などを自動走行する「レベル3」の車両をホンダが世界で初めて発売する。ただ、国内外のメーカーは数年前から「2020年中」を目標にしていたはずで、本来ならもっと多くの新型車が登場していてもおかしくない。誤算はどこにあったのか。

 「一番初めに市場投入するリスクをどう考える?」

 「メーカーが決めた設計内容を規制当局と議論して合意形成し、製品を出した上で市場の声をフィードバックする。結局、新たな製品を出すにはこのサイクルを回していくしかない」

 先月、自動車技術会が開いたオンラインシンポジウムで、ホンダの技術者はレベル3車両についてこう答えた。

 同社は11日、「トラフィック・ジャム・パイロット」を搭載した「レジェンド」の型式指定を取得し、今年度内に発売すると発表した。自動車の国際基準を決める国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で6月に成立し、国土交通省が自国で先行施行した「乗用車の自動運行装置」に関する基準は「高速道路等における時速60㌔㍍以下の渋滞時等」が条件だ。レジェンドもこの条件に従い、渋滞下の時速30㌔㍍以下で作動し、時速50㌔㍍以上になると切れる。

 「高速道路の自動運転」と言われて、ドライバーが思い描くのは法定速度内でクルマが運転してくれる姿だろう。実際、レベル2(運転支援)なら日産自動車「プロパイロット2・0」など、法定速度でアクセルやハンドルから手を離せる技術がすでにある。レベル2と3で何がどう違うのか。

 トヨタ自動車で自動運転を研究する谷口悟史氏は「レベル3では、われわれがハンドルを握ることになる」と話す。レベル2はあくまで運転支援で、ドライバーの前方注視が必要な上、事故責任は今まで通りドライバーが負う。これに対し、レベル3の自動運転下では作動限界までシステムが責任を負う点が異なる。限界を超えたらドライバーに運転を求めるか、安全に車両を止めなくてはならない。

 時速100㌔㍍で走る車は1秒間に約30㍍進む。50㍍前後の物理的な制動距離を考えると、今のセンシングや認識技術では、進路上のさまざまな障害物を検知・特定して安全に止まろうとしても「100回やると何回か失敗する」(自動車メーカー)。さらに自車の左右から侵入してくる障害物を検知する技術は前方に比べ格段に難しく、実用的な技術がまだない。米テスラなどは例外だが、各社がレベル3車両の投入に慎重なのは、今の完成度で規制当局やドライバーの理解を得られるか未知数だからだ。

 ホンダの技術者が冒頭で指摘した「官民の合意形成」を後押しする動きはある。昨年7月にフォルクスワーゲンなどのドイツ勢が「SaFAD」というガイドラインをまとめた。日本でも日本自動車工業会が先月「自動運転技術の安全評価手法」をまとめている。いずれも自動運転における安全条件を明確にし、メーカーやサプライヤーが個別に製造物責任を追及されないようにするのが狙いの一つだ。ただ、どちらも強制力はなく、米国のようにあえて基準を決めずに実装を先行させる動きもある。

      ◇

 ここ10年ほどで自動運転技術が急速に進歩したことは確かだ。遠隔監視や低速ならドライバーが要らない「レベル4」車両も実用段階に入った。ただ、人とシステムが責任をやりとりしながら高速で走るレベル3車両の完成度をどう高めていくかは、規制のあり方や社会的受容性を含め、いまだ手探りが続く。「クルマに任せていれば安心」と考えがちなドライバーと、100%の安全があり得ないシステムとの谷間は深い。

(編集委員 畑野旬)