リンクアンドコーは富士スピードウェイで新型車03の発表会を開催した
ヘリコプターが低空飛行で演出
世界ツーリングカー選手権参戦マシン
ステージ上に男女のモデルが登場

 中国の吉利汽車とグループのボルボ・カーズの合弁会社Link & Co(リンクアンドコー)が10月19日、静岡県小山町の富士スピードウェイで、新型セダン「03」のグローバルローンチを実施した。新車発表会をサーキット会場で開催するのも珍しいが、もっと異例なのはそのド派手な演出だ。

 チャーターしたヘリコプターが発表会場の上空を低空飛行してサーキットを走行する新型車をサーチライトとカメラが追う。ステージ上では新型車とともに、モデルの男女が闊歩し、まるでファッションショーだ。新型車の価格を発表すると、発表会に招待された約300人の中国系メディアの記者団が歓声を上げる。新型車発表会でも、伝統的な自動車メーカーとは異なることを強く打ち出した。

 リンクアンドコーは、「自動車メーカーではなく、まったく新しいモビリティサービスを提供する」(吉利ホールディングスのアン・コングゥイ社長)ために吉利汽車とボルボが設立した新興企業。オーナーがクルマを使用しない間、カーシェア車両として貸し出して収入を得るモビリティサービスを想定して開発したクルマを供給する。車両がインターネットに常時接続する通信端末を標準装備しており、車内に備える「シェアボタン」とスマートフォン(スマホ)アプリを使って、知らない人にクルマを貸し出すことができる。車両の販売方法についても一括購入だけでなく、必要な期間だけ定額料金で利用する「サブスクリプション」による販売手法の導入も検討している。エンジン性能など「高機能を追求したクルマではなく、消費者に求められるソリューションを重視」(リンクアンドコー エグゼクティブ・バイスプレジデントのアラン・フィッセル氏)する。

 2017年11月に中国でインターネットによる直販を開始した最初のモデルとなる小型SUV「01」は「発売開始から2分強で6000台を受注した」という。中国市場では小型SUV「02」も加えて現在、毎月1万5000台前後を販売している。

 リンクアンドコーは、2020年に欧州市場、2021年には米国市場に参入する予定で、今後、世界に打って出る戦略だ。そのために神経を使っているのが中国系企業と見られないことだ。01、02も今回発表した03も、開発はスウェーデン・ヨーテボリ市で、エンジニアの多くがボルボ出身者で固められている。中国人は「ごくわずか」という。

 販売戦略でも3モデルともプラットフォーム、エンジンなどほとんどを「ボルボ40シリーズ」と共有していることを全面に打ち出している。中国ブランドに対する「安かろう悪かろう」のイメージを払拭するためだ。

 新型03の発表会を、市場投入の具体的な予定のない日本の富士スピードウェイで行ったのは世界的なモータースポーツに参戦することを発表するためだ。リンクアンドコーは、国際自動車連盟が主催する世界ツーリングカー選手権に03で参戦する。「世界的なモータースポーツの参戦することは、リンクアンドコーの車両のクオリティが高いことの自信のあらわれ」(フィッセル氏)という。

 リンクアンドコーが主なターゲットとする中国の若い世代はモータースポーツに対する関心が高いことも背景にある。日本は「モータースポーツ文化が盛ん」と見られており、聖地のひとつである富士スピードウェイを03の発表の場に選んだ。ここに中国系メディアを大量動員するとともに、凝った演出で「既存の中国系自動車メーカーとはまったくちがう」ことを理解してもらいたいとの思惑が透けて見える。

 消費者の意識が「保有」から「利用」へとシフトし、グローバルではライドシェアやカーシェアの市場が拡大している中、「保有」をベースにしたビジネスモデルに成功を収めてきた既存の自動車メーカーもライドシェアなどのモビリティサービス市場参入を視野に動いている。ただ、リンクアンドコーは、保有ビジネスの資産を持たないだけに「販売数量は追わない」「個人間カーシェアを前提にしたものづくり」「販売はインターネットによる直販」「サブスクリプションに導入」と、現代の若者が好みそうなキーワードを採り入れた大胆な戦略を打ち出している。リンクアンドコーの最大のネックとなりそうな中国系ブランドについても、モータースポーツで世界と戦える技術力をアピールすることで、これを打破しようとしており、モビリティサービスを展開する既存の自動車メーカーにとって脅威となる可能性もある。