マレリホールディングス(HD)が先週、米国デラウェア州の連邦倒産裁判所に、日本の民事再生法に当たる米連邦破産法11条(チャプター11)に基づく再建手続きを申請して承認された。同社は2022年に民事再生法の適用を申請して経営再建に踏み出したばかり。短期間で2度目の経営破たんとなった。約6年前にメガサプライヤーを目指して発足したはずのマレリ。進むべき道をどこで見誤ったのか。
マレリの前身であるカルソニックカンセイ(CK)は、日産系を代表するサプライヤーだった。25年前に経営危機に陥った日産は「ニッサンリバイバルプラン(NRP)」で取引先1千社以上の保有株式の大半を売却したが、CKの株式は持ち続け、最終的には子会社化した。CKは、日産の完成車組立ラインにコックピットモジュール(複合部品)を供給するサブラインを設けるなど、日産車の生産を支え続けてきた。
ただ、収益力は低かった。独フォルクスワーゲン(VW)グループなど、欧州発のモジュール化の流れの中で、CKも自社生産以外の部品を集約し、セット供給するモジュール製品に注力してきた。しかし、自動車メーカーにとってモジュール化は主にコスト削減のためだ。日産の工場内にサブラインを設けていることから「ほぼ確実に部品を受注できるが、厳しいコストを要求されることが収益率の低い要因だった」と、当時のCKの幹部は振り返る。
そんなCKに転機が訪れたのは17年のこと。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)が進展する中、日産もボッシュやコンチネンタルといったメガサプライヤーとの取引を増やし始める。調達の自由度をさらに確保するため、日産は保有するCKの全株式を米国投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却。結果としてCKは独立系サプライヤーとしての道を歩むことになった。
当時、部品メーカーはM&A(企業の合併・買収)でメガサプライヤーになるか、その傘下に入らなければ生き残れなくなるとの観測が強まり、部品メーカーの再編が加速した。その流れに沿って、KKRは18年にフィアット・クライスラー・オートモビルズ(FCA、現ステランティス)傘下の大手部品メーカーだったマニエッティ・マレリ(MM)を買収し、翌年にCKと経営統合させた。
メガサプライヤーを目指した新生マレリだが、当初から目算が狂う。主要納入先の日産、FCA以外との取引拡大を狙ったが、両社が取り扱うコックピットや空調などの部品は、自動車メーカーとの緻密な擦(す)り合わせが求められるため、新規開拓は難航した。実際、今もステランティスと日産向けが売上高全体の6割を占める。工場の統廃合など生産の効率化についても、日産とステランティスの品質基準が異なり、思うように進まなかった。
そこへ追い打ちをかけたのがカルロス・ゴーン事件後の経営混乱で日産の新車販売が低迷したことだ。高コスト体質の中で受注量が大幅に減り、資金繰りが急速に悪化。22年に経営破たんした。
その後、マレリは引き続きスポンサーとなったKKRが主導する形で経営再建を進めてきた。追浜工場(神奈川県横須賀市)を閉鎖・売却するとともに、実験研究センター(栃木県佐野市)を縮小するなどリストラも進み始めた。それでも日産の生産が回復せず、さらにステランティスも販売不振に陥ったため、11日に2回目の法的整理を余儀なくされた。
もっとも、見込み通りの経営統合効果を出せずにいるサプライヤーはマレリだけではない。日産との取引が多かった独立系の日立オートモティブシステムズは、ホンダ系のケーヒン、ショーワ、日信工業と統合し、21年に「日立アステモ」となった。日立色を打ち出すことで日産、ホンダ以外との取引拡大を目指したが、思うような成果が出ず、23年にはホンダが出資比率を日立製作所と同水準に引き上げ、今春には社名を「アステモ」に変更。事実上、ホンダ系サプライヤーとなった。
既存のメガサプライヤーも厳しい。ボッシュやコンチネンタルなどの欧州勢は電気自動車(EV)シフトが裏目に出て人員削減や工場閉鎖などのリストラに追われる。先進運転支援システム(ADAS)など先進技術分野で中国系企業の存在感が増していることも新たな脅威だ。
マレリは今後、DIPファイナンス(つなぎ融資)に頼りながら再建スキームを模索することになる。ただ、M&Aを重ね、事業規模を膨らませてきた既存のメガサプライヤーも安心はできない。電動化と知能化が同時進行する中、完成車メーカーとともに、サプライヤーも生き残りの「正解」が見えない時代に突入した。