経営再建中の大手自動車部品メーカー、マレリホールディングス(HD)は11日、米連邦破産法11条(チャプター11、日本の民事再生法に相当)の適用申請を正式発表した。事業を継続して再建を目指すが、メガサプライヤーへの道のりは遠い。
複数の関係者によると、インド部品メーカー、マザーサン・グループがスポンサーに名乗りを上げ、私的整理の交渉が進んできた。だが、マレリのメインバンクであるみずほ銀行など邦銀側と、米ストラテジック・バリュー・パートナーズ(SVP)など外資系ファンドや金融機関の思惑がすれ違う。
みずほ銀などはマレリ経営陣の意向も踏まえ、リストラとともに一定の投資を支持した。これに対し外銀などは、債務の返済や、短期間での企業価値向上を重視した。
みずほ銀がメインバンクとはいえ、外銀側は三井住友銀行や三菱UFJ銀行から貸出債権を買い集めるなどし、その保有額は計3千億円強と、みずほ銀(約2千億円)を上回る。特に対立したのは追加融資などに関する債権の扱いで、外銀側は自らの債権の返済順位について、みずほ銀などが持つ債権より上位にする「アップティアリング」を提案し、邦銀側が反発した経緯もあった。
両者の溝が埋まらない中、マザーサンをスポンサーとする5月26日の提案から10営業日に当たる今週初めが、金融機関などの態度表明の期日とされた。ギリギリの調整が続いたが、最終的に債権者全員の同意が得られないことが固まった。「債務整理がまとまらないと、資金繰りが行き詰まるおそれもある」(関係者)ことなどから、米破産法を申請する流れになった。
申請先は米デラウェア州連邦倒産裁判所。同裁判所は、企業法・破産法関連の審査体制が充実し、判例も豊富なことなどから、グローバル企業の多くが申請先に選ぶ。今回も「手続きの申請には最も適している」(同)として選ばれた。日本で民事再生法を申請すると、裁判所が送り込む管財人らの監督下に置かれるほか、手続きにも相応の時間がかかる。チャプター11は「経営陣がそのまま指揮を執り、また45日間の期間のうちに手続きを進めるなど、迅速な対応ができる」(同)と判断したようだ。
新たなスポンサー候補として、邦銀側は引き続きマザーサン、外資連合は自らを挙げている。また新規のつなぎ資金枠は11億㌦(約1600億円)に設定された。
マレリは、前身にあたる旧カルソニックカンセイを米投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が2017年に買収し、旧マニエッティ・マレリと統合する形で19年に誕生したが、22年に経営が行き詰まった。日産自動車の元幹部は「そもそも経営統合の際に補完関係があまりなかったため、ラインの『片寄せ』といった再編もほとんどできず、中途半端なままだった。日産本体も自身の経営が厳しく、支援をする余力もなかった」と振り返る。債権者筋は「誤算は日産、ステランティス依存から抜け出せず、しかも、その2社が業界の中でも最も落ち込みが厳しくなった。これは二重の誤算だった」と語った。
今後、経営再建の主導権を握るとみられるSVPは、製造業の再生を支援した実績に乏しいとされる。日産の元幹部も「どういうスタンスで臨むか分からない。事業の切り売りやリストラを進めることも十分考えられる」とみる。債権者筋は「マザーサンも引き続きスポンサー候補だが、SVPが新たな協業先を見つけてくる可能性もある」と指摘する。
マレリグループの取引先は国内だけでも3千社近くある。仕入れ先には中小・小規模(零細)企業も多く、再建スキームの行方を注視する。新体制が固まるとみられる7月下旬以降に向けて、さまざまな駆け引きが続きそうだ。
(編集委員・野元 政宏/山本 晃一)