日野自動車と三菱ふそうトラック・バスは10日、経営統合で最終合意した。日野の認証不正問題が長引いて2年遅れとなったが、その分、議論も深まり、トヨタ自動車の佐藤恒治社長は「今後のプロセスは円滑に進む」と期待する。しかし、世界の商用車市場では中印メーカーが台頭する。生い立ちも文化も異なる両社が相乗効果を生み、狙い通りに競争力を高められるか。乗り越えるべき課題も多い。
「商用車業界は厳しさを増している。この業界はスケール(規模)が重要で、日本市場でこれほど多くの商用車メーカーが個々に存在するのは現実的ではない」。2社を傘下に収める持ち株会社のトップに就く三菱ふそうのカール・デッペン社長CEO(最高経営責任者)は、統合の必要性をこう説明した。
車両区分にもよるが、世界の商用車市場はかつて、ダイムラーやボルボが〝2強〟として君臨していた。しかし、今は販売トップ20のうち中国系が7グループ、インド系が3グループを占める。商用車は軸重規制の違いや架装の必要性、アフターサービスの観点から地場勢が有利だ。中印勢とも母国市場の拡大とともに存在感を高め、先進国の商用車メーカーは危機感を募らせている。
2023年5月末の基本合意後、ダイムラーと三菱ふそうは、日野の認証不正問題に区切りがつく日を待ち続けた。24年2月に無期限延期を発表した際は白紙撤回も噂されたが、複数の脱炭素化技術を同時並行で開発するには「スケールしかない」(ダイムラートラックのカリン・ラドストロムCEO)との考えが交渉継続の原動力となったようだ。
日野の親会社であるトヨタは「乗用車メーカーであって、商用領域をリードできる関係性になかった」(佐藤社長)という反省もある。持ち株会社にはトヨタとダイムラーが25%ずつ出資するものの、トヨタの小型トラック事業が新会社と競合することに配慮し、議決権ベースではトヨタが19.9%、ダイムラーが26.7%となる予定だ。
乗用車以上にスケールメリットがモノを言うことは確かだが、10日の会見では統合効果を問う声に対し、両社の首脳は「数字を挙げるのは時期尚早だ」(デッペン社長)と繰り返した。各国の規制当局による審査を控えているためだが、以前と異なり、統合プロセスにじっくり時間をかける余裕はない。とりわけ開発のすみ分けや部品の共同調達、生産の合理化など、投資や収益に直結する領域はなるべく早く方向性を固める必要がある。
また両社は、経営統合後もそれぞれが持つ国内の販売網を残す方針だ。日野の小木曽聡社長は「日野とふそうのブランドを大切に、販売では時に競争しながら顧客に貢献することがメーカーとして強くなる基本だ」と説明する。
ただ、未来永劫〝聖域〟とは限らない。人口減少やドライバー不足などによる積載率向上の取り組みは新車販売の減少につながるし、整備士不足も慢性化しているからだ。実際、UDトラックスを21年に傘下に収めたいすゞ自動車は、27年までに国内販売機能の統合を視野に入れている。日野系販売会社の首脳は「いずれは商品が同じものになる可能性が高い。社員には各々のスキルを磨くよう言っている」と明かす。
日野がいすゞ自動車と共同出資するジェイ・バスの行方など、関係会社を含めて対応すべき点は多い。
脱炭素技術も早期にシナジーを発揮できるかどうか気がかりだ。トヨタとダイムラーは、燃料電池(FC)などの技術で協業を深め、セル(単電池)の開発など踏み込んだ連携も模索する。
しかし、すでに中国政府は燃料電池車(FCV)の保有台数を今年中に5万台にまで増やす計画を持ち、水素インフラの整備も着実に進めている。他方、FCトラックを開発していた米新興のニコラは今年2月に経営破綻した。乗用車より開発や普及のハードルが高い点ではEVトラックも同じ。中小・小規模(零細)が多い運輸事業者にこうした車両をどう普及させるかという難題もある。
グローバル企業のダイムラーを親会社に持ち、多様性を重んじる三菱ふそう。日本に根ざし、前身企業が戦前からトラックやバスを製造してきた日野。シナジーへの期待が膨らむ半面、自動車業界には米独連合(ダイムラークライスラー)、日独連合(フォルクスワーゲンとスズキ)がうまくいかなかった歴史もある。台頭する中印勢や一足先に結束を高めるいすゞグループらに対し、新たな日独連合はスピード感を持ってシナジーを創出できるか。持ち株会社は今年後半にも新戦略を公表する予定だ。
(中村 俊甫)