自動車部品業界で、買収防衛策を策定したり、見直したりする動きが盛んになってきた。系列の希薄化や株式の持ち合い解消、創業家との関係変化などが背景にある。中印などの新興部品メーカーにとって、開発力や生産技術で一日の長がある日系部品メーカーは格好の買収対象だ。各社は自社の価値を守るための戦略を模索している。もっとも「無借金経営を誇るような経営ではなく、企業価値を高める経営が根本対策だ」(ファンド関係者)との声もある。
ゴム部品などを手掛けるフコクはこのほど、買収提案への対応方針について、一部を手直しのうえで継続する方針を発表した。
70年あまりの歴史を持つ同社は長年、創業家による同族経営が続いていたが、2019年に資本と経営の分離に向けて準備を始め、翌年には創業家以外からトップが初めて就任した。同社は「所有と経営の分離が進み、取締役会に創業家出身者がいなくなったことから、今後の世代交代などにより、(相続などを通じて)株式分散化が進んでいく可能性が高くなっている」とも提起した。実際、創業家の持株比率は、前年度比で1.7%減少しているという。このため、買収防衛策について「必要かつ相応な対抗措置を執ることにより、企業価値、株主共同の利益を確保する必要がある」とする。
フロアマットを手掛ける永大化工もこのほど、買収対応方針を続けると発表した。現在、特定の買付提案は受けていないというが、「大規模買付者」が現れた場合のほか、企業価値や株主利益が著しく害されると認められる場合「対抗措置を取ることがある」とする。新株予約権の発行などを含む対抗措置を視野に入れている。
こうした取り組みの背景には、株式の持ち合いが崩れる中、事業会社やアクティビスト(物言う株主)などが非友好的な株式取得を進めているという事情がある。経営権の取得を目的とした〝同意なき買収〟にとどまらず、経営に一定の影響を及ぼす、事前同意のない株式の大量取得行為も珍しくなくなってきた。
自動車関連業界では最近、芝浦電子や牧野フライス製作所などで、買収提案や対抗策が注目されている。また、豊田自動織機が、トヨタ自動車やグループ企業によるTOB(株式公開買い付け)を受け入れる方針を決めたのも、ガバナンス(統治)の見直しとともに、アクティビストらの過度な介入を避け、中長期目線で企業価値を最大化する狙いがあるとみられる。
買収防衛策の策定や公表には、資本市場から批判的な声もある一方、非友好的な株式取得に対するけん制効果などが見込める。
もっとも、守りをただ堅くするだけでは経営陣の保身と受け止められても反論できない。M&A(企業の合併・買収)などに詳しい伊藤友則・早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター教授は「バブル後、多くの企業は積極投資をせず、コスト削減で利益を確保してきた。縮小均衡による利益確保では当然ながら成長は犠牲になる。企業経営の本質は『リスクテーキング』で、リスクを取らないのが企業にとっての最大のリスクだ。企業価値を最大化するような施策をしっかりと実行し、適正株価を維持していれば、同意なき買収のターゲットにもなりにくい」と指摘する。
電動化、知能化が加速する自動車業界で自社の強みがどこにあり、どのような成長シナリオを描いてステークホルダーの理解を得るか。垂直分業とされる日本の自動車産業で長年、仕事をしてきた日系自動車部品メーカーの経営陣や管理職に求められる資質や能力は今後、様変わりしていきそうだ。