台湾の電子部品大手、国巨(ヤゲオ)の陳泰銘(ピエール・チェン)会長は7日、台北郊外の本社で日刊自動車新聞など一部メディアのインタビューに応じ、芝浦電子へのTOB(株式公開買い付け)で、芝浦電子側と近く面談するとの見通しを明らかにした。ミネベアミツミとのTOB合戦について、ヤゲオ側が内外報道陣の取材に応じるのは初めて。
ヤゲオのTOBでは、外為法(外国為替及び外国貿易法)の審査が課題と指摘されているが、陳会長は手続きの進行に自信を示し、技術が流出する可能性を否定した。
また、芝浦電子の製品について、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転、HPC(高性能コンピューティング)など、車載事業を柱の一つにする考えを表明。ヤゲオと組むことで、芝浦製品が欧米の自動車業界にも浸透できると強調した。さらにエヌビディアをはじめ、人工知能(AI)関連の需要も開拓できると力説した。
主なやりとりは次の通り。
―買収の狙いを改めて
「芝浦には以前から着目していた。当社は、電子機器の基板内にある部品類のうち約9割の分野を手掛けている。芝浦を傘下にすることで、残り1割を埋められる。芝浦を買収できなくても不利益があるわけではないが、買収することでさらにソリューションを拡充できる」
―以前から買収に熱心だが、事業戦略は
「(買収は)シナジーが得られる先に絞っている。既存の豊富な技術資源と資金を生かし、戦略的提携を推進している。買収先の企業には、製品や顧客、市場への理解が不足している場合があり、当社が支援することで、以前は接触できなかった顧客層に食い込め、売上高や利益を増やすなど新たな価値を生み出せる。日本でもトーキンの技術に投資して製品を開発し、より高度な製品を海外に販売する土台づくりを支援した」
―芝浦との連携で描く戦略は
「芝浦にリソースを注入し研究開発(R&D)を推進する。(当社は)ほとんどの自動車メーカーと取引があり、開発段階からデザイン・インで取り組める。芝浦の販路は従来、日系メーカーが中心で欧米での販売は限られていたが、当社と連携することで販路が広がる」
―自動車分野の成長戦略は
「芝浦製品をラインアップすることで、多くの自動車メーカーが必要とする部品の品ぞろえを拡充し、ソリューションとして提供できるようになる。自動車のトレンドはADASと自動運転だ。ここでは、芝浦が手掛けるようなセンサーが数多く必要になる。自動車ではエッジ(車体)側へのAI搭載が進み、センサーの搭載数も一段と増える」
―車載以外に想定する分野は
「多数の高性能サーバーを稼働させるデータセンターなどでは温度管理上、センサーはさらに重要になる。エヌビディアやAMD、AI向けサーバーに強い鴻海(ホンハイ)精密工業など、台湾から始まったり、台湾に拠点を持つAI・半導体関連の企業は多く、台湾はその点で世界の最先端になっている。台湾発でグローバル企業である当社との連携で、芝浦はAI関連を含めて新たな取引先に浸透でき、新規の投資も可能になる」
―外為法関連の審査に関しての懸念や、芝浦との対話は
「日本政府とのコミュニケーションはうまく行っている。芝浦電子とは過去の数カ月間、一度面会への同意をもらっただけだったが、近く、おそらく16日の週に東京で面会することになるだろう」
「技術流出のリスクはない。技術は重要な資産であり、流出は許されない。例えば、台湾積体電路製造(TSMC)の先端技術が、政府と連携しつつ熊本に輸出されているが、技術流出などと問題にされたりしない。芝浦はすでに海外拠点もあるが、技術流出につながっていることもない。そもそも日本が非友好的と見なすような国に技術が流出すれば、当社にも得策ではない。管理をさらに厳格化させ、技術を日本にとどめ、流出させないようにする」
―現在のTOB価格をさらに引き上げたり、期限(19日)を延ばしたりする可能性は
「それを話すのは時期尚早だ。現在の価格(6200円)は妥当と考える。私たちのTOB計画発表前は、株価は3千円台だった。高いと思われるかもしれないが、シナジーを出せる自信がある。ミネベアミツミ側のTOBへの応募を決めている20%あまりの株主も、これは条件付きだと考える。ミネベアミツミはプライベートエクイティ(PE)ファンドと組んでいるが、当社は1300億台湾㌦(約6千億円)のキャッシュがあり、自己資金の範囲でまかなえる」
(編集委員・山本 晃一)