「主権を現場に戻す」と語ったトヨタの豊田章男会長(24年1月のグループビジョン説明会)

 トヨタグループが企業統治の転換点を迎えている。2023年頃からデンソーやアイシンなどが株式の持ち合い解消に乗り出し、グループを挙げて資本効率の改善を進めてきた。歴史的な経緯から複雑な株式持ち合い構造を持つ豊田自動織機も株式を非公開化し、経営の自由度を高める。電動化時代の初戦はハイブリッド車(HV)で圧倒的な存在感を示すトヨタグループ。今回の資本政策を電動化や知能化への対応、さらに将来のモビリティ事業の拡大に結び付けていけるか。

 トヨタ不動産が約1800億円、トヨタ自動車の豊田章男会長が10億円出資して持ち株会社を設立、傘下の特別目的会社(SPC)が融資を受けて豊田織機の株を取得する。トヨタも持ち株会社に約7千億円を出資するが、議決権を持たない優先株となる。

 豊田織機の株式非上場化プロセスは①豊田織機株主への株式公開買い付け(TOB)を12月に実施②豊田織機が保有するトヨタ自動車、デンソー、アイシン、豊田通商の4社株の自己株取得(公開買い付け)③豊田織機が既存の有利子負債を返済④トヨタが保有する豊田織機株式の自己株取得―の4段階で進む。

 今回の枠組みで中心となるトヨタ不動産は、トヨタや豊田織機やデンソーなどグループ15社が株主に名を連ねる非上場会社だ。自動車を軸に束ねられるトヨタグループにおいて、同社が豊田織機買収の主体となるのは、株主構成からグループの総意を反映させやすいからだ。この枠組みに豊田会長が少額出資することについて、トヨタ不動産の近健太取締役は「グループの大きな変革へのコミットメントとして重要だ」と説明した。

 豊田織機が株式非公開化を選んだ背景には、上場企業に対するアクティビスト(物言う株主)の圧力など経営指標に対する市場からの要求の高まりがある。例えば、株主が出資した資本に対してどれだけ利益を生み出しているかを示すROE(自己資本利益率)は直近で4.79%と、一般的な指標となる10%には遠く及ばない。

 源流企業である豊田織機はトヨタをはじめ多くのグループ株式を保有しているが、株式を売って成長投資に回すよう投資家からの要求は強まっていた。豊田織機の伊藤浩一社長は株式非公開化について「(アクティビストからの)防衛策というところから始まっている発想ではない」と話すが、グループ首脳からは「非公開化でアクティビストへの対応もなくなり、豊田織機がさらに発展することを期待する」という声が出る。

 トヨタは、過去にも子会社だったダイハツ工業を完全子会社化した経緯がある。国内市場の縮小が避けられない中、ダイハツが腰を据えて軽自動車や新興国向けの商品展開に集中できるよう、16年に上場廃止した。資本の論理にとどまらず、グループが手掛ける事業を再編する「ホーム&アウェイ戦略」を進めつつ、トヨタグループは世界トップの自動車集団に上り詰めた。

 しかし、トヨタグループは数年前まで、機関投資家やメディアから「電気自動車(EV)出遅れ」と厳しい批判にさらされていた。結果的にEVブームが冷め、多様なパワートレインを用意するトヨタの「マルチパスウェイ(全方位)戦略」が正しかったことが証明された。

 フォークリフト製造など物流事業を主力とする豊田織機にとって「物流は成果が出るのに時間がかかるし投資も多い」と伊藤社長は話し、株式非公開化による長期的な目線の投資がやりやすくなる。

 豊田織機をはじめ、グループ内で不正が相次ぎ発覚した24年1月、豊田会長はグループビジョン説明会で「主権を現場に戻す」と語った。豊田織機は株式市場から離れ「現場主導で確実に競争力を高める」(トヨタ不動産の近取締役)方針だ。

 豊田織機は来年で設立100周年を迎える。グループが大きな節目を迎える中で、新たな体制でさらなる成長を目指す。

(編集委員・福井 友則)