トヨタ自動車グループが政策保有株(持ち合い株)の見直しを加速させている。トヨタは、デンソーやアイシンの保有比率を持ち分法の下限である20%まで引き下げた。豊田自動織機はデンソーの持ち株すべてを売却する。デンソーも今後2、3年かけて政策保有株をゼロに近づける方針だ。クルマの電動化や知能化をにらみ、各社は株式売却で得た資金を将来への成長投資に回す。一方、足元では、旧村上ファンド系の投資会社が愛知製鋼株を買い増すなどの動きもある。トヨタグループの旗の下、各社の資本政策が問われる。
トヨタの山本正裕経理本部長は、2024年4~9月期決算説明会でグループ各社との関係を問われ「事業や取引関係、出資比率、人的交流などを絶えず議論し、見直している。(保有比率は)20%への引き下げありきではない」と答えた。グループ外の株式も含めてアセット(資産)を成長投資へと転換し、モビリティカンパニーへの変化を加速させる考えだ。
豊田自動織機は24年12月から27年3月にかけ、保有するデンソーの全株式を売却する。売却総額は約4千億円にのぼる見込み。同社は24年10月末までの1年間で政策保有株3009億円を売却しており、その他の株式も保有の必要性を精査していくという。高木博康執行職はデンソー株について「政策保有株を縮減し、成長投資、株主還元を進める一環だ。マーケットからの要望に応える側面もある」と説明した。
デンソーは、2~3年かけて政策保有株をゼロに近づける方針を示す。このほど4500億円を上限に自社株買いを行うと発表した。松井靖副社長は「政策保有株の売却もあり、キャッシュが積み上がっているこのタイミングだと判断した」と説明。今後も成長投資を優先しつつ、自社株の需給を注視し、機動的に自己株買いを行う方針だ。
日本では長年、安定株主の確保や買収防衛のため、企業と銀行間、企業間で株主の持ち合いが常態化してきた。株主からの圧力を和らげ、経営が安定化するなどの利点がある半面、資本効率の低下を招き、日本株が海外の投資家から敬遠される理由とも指摘されてきた。こうした中、トヨタグループでは政策保有株の見直しが加速している。
ただ、持ち合いの解消は物言う株主(アクティビスト)から提案を受けたり、買収リスクにさらされることを意味する。旧村上ファンド系の投資会社が株式を買い増す動きがある愛知製鋼。後藤尚英社長は「取得は事実だ」と認めつつ「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)対応などで設備投資が必要な中、どう会社を成長させていくか。年度内には考えを示すタイミングがある」と述べ、成長戦略を前提に株主還元を進める方針を示した。