エコカーにはハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)、バッテリー電気自動車(BEV)、レンジエクステンダー(REX)…さまざまなな種類があるが、ユーザーにとって、それぞれの構造や性能については良くわからないというのが本音かも知れない。今回は特にわかりにくいと思われるPHEVとエコカーの今後も考えてみたい。
●PHEV
PHEVはHEVにEV、あるいはEVにHEVを足したものと言える。
PHEVは、HEVより多くのバッテリーを搭載し、走り始めはEVとして走り、バッテリー容量が減ったり高速走行など高負荷になるとエンジン駆動になりHEVとして走行する。航続距離に心配がほとんどないことが最大の特徴だ。
それゆえ、EVの弱点を改良した一歩先の技術のように思われるかもしれないが、そんなことはない(図1)。
●PHEVの燃費
PHEVは HEV+EVという「二つ持ち」なので燃費は良い?
例えばプリウスPHEVのカタログをみると驚くなかれHEVより燃費が悪い!プリウスPHEVはWLTC(乗用車等の世界統一試験サイクル)モードで26.0㌔㍍/㍑、HEVは28.6㌔㍍/㍑となっている(図2)。
実際の走行ではEV走行分もプラスされるから間違いなくPHEVの方がいわゆる燃費は良いはずだ。
つまり、カタログの燃費にはEV分が反映されていないのだ。
しかし良く見るとEV分は、「充電電力使用時走行距離(㌔㍍)」「EV走行換算距離(㌔㍍)」や「交流電力量消費率(㍗時/㌔㍍)」で表されている。
これは結局どれくらいの燃費(㌔㍍/㍑)なんだ?と言いたくなるが、お分かりのように㌔㍍/㍑と㍗時/㌔㍍は比べられない。
つまり、PHEVはモーターとエンジンと二つの駆動方法を持つので「電費」「燃費」と2通りあり、一つで表現できないのだ。
●PHEVの問題
日常の走行距離が短いユーザーは毎日充電すれば全くEVとしてのみの使用に終始し、エンジンは使用されない。極端な話、クルマの生涯一度もエンジンが始動しないこともありうる。せっかくのエンジン関係部品が単なる「重石」となる。
一方で、日常的に長距離を走るユーザーにとっては、走り始めのEV走行部分は相対的に短く、例えば、満充電で50~100㌔㍍程度走行できるとすると、その分のガソリン消費量は2~4㍑程度になり、それくらいなら、どうせガソリンスタンドに行かなければならないので、その時に少し多く入れれば済むのだ。クルマがガレージ内にあればまだしも屋外で雨の日などは、充電する作業は特に面倒だ。
つまり、ユーザーが充電しなくなると、今度はHEVにプラスしているバッテリーやモーター等が単なる「重石」となる。
さらに平日は近場の買い物程度と時々週末に遠出というまさにPHEVの想定パターンのユーザーでも、毎日のことになると「もうEV走行でなくHEV走行でいいや」となってしまうということだ。(数は少ないがPHEVオーナーにヒアリング)。
このように、どちらかが「重石」になり機能しないのに、その分「コストは高い」ことがPHEVの最大のネガとなる。
プリウスPHEVの場合は、HEVに比べてざっと90万円程度高い。補助金は55万円程出るらしいが、3年ないし4年の定められた期間(取得財産等の処分制限期間)は保有することが義務付けられており意外と面倒だ。日本でのPHEV購入のハードルは高い。
●PHEVの存在意義
それでも最近、欧州や中国でPHEVが人気になってきている。
中国でPHEVは、EVと同じ新エネルギー車(NEV)の枠に入っており、政府による補助金や税制優遇など多くのユーザーメリットがある。
また、欧州、北米、中国も、高速道路が整備されていて高速走行が多いため〝走行レンジの長いEV〟として比較的PHEVにはポジティブだ。
欧州のPHEVは世界で一番売れている(図4)。
欧州でEVが伸び悩むのは、やはり高速道路網が充実しておりクルマでの高速移動が日常的だからだろう。EVでは航続距離に不安が残り、またサービスエリアでの充電は面倒だ。
別の視点だが、欧州や北米の先進国カーメーカーでは、EVの性能・価格ですでに中国車、とりわけ比亜迪汽車(BYD)には勝てないという空気になってきているようだ。このままいけば世界を席巻されるという不安は大きい。
そこで、先進国カーメーカーはエコカーにエンジンを残すことも考え始め、欧州は2023年にエコカーはエンジンでもOKとした。またPHEVならエンジンは残り、欧州カーメーカーが得意な大排気量高級車(高収益)も残せる。
日本などでは、PHEVは一部ユーザーの〝対EV航続距離対策〟にしかつながらないのに高価で、実際プリウスの場合、HEVとPHEVでは、その販売台数に大きな差がある。世界の中で特に日本ではPHEVユーザーは少ない(図4)。
●エコカーはEV➡PHEVへ誘導?
EVは、今まで先進国メーカーが先行者利益として守ってきた現状の内燃機関のビジネスモデルとは異なり(図3)、社会のインフラから企業の設備投資からすべてが新しくならないといけない。つまりEVの世界は旧来のビジネスモデルからパラダイムシフトするのでゼロスタートの新興国に有利だ。
PHEVならZEV(ゼロエミッションビークル)にはならないが、パラダイムシフトまでいかなくて済む。欧州はそれに持ち込みたい。
考えたら世界がEV化することは新興勢力に塩を送るようなものかも知れない。
●EVの今
EVはバッテリーのコストや安全性、発電インフラの現実問題等を考えるとまだ技術進化の途中と言える。他のシステムも含めてエコカーには「決定打」がない状況だ。
しかし、中国のBYDを中心に「EV=決定打」とすべく、その性能と価格競争力の進化は凄まじいものがあり、このままいくと世界はEV一色になる可能性もでてくる。
日本人にはピンと来ないが、欧米では性能・コストで勝てない先進国の自動車産業の先行きが危ういと認識していると思う。
地球環境は人や動植物等がサステイナブルに生きていくために守らなくてはいけない大切なものだが、それ以上に現実の覇権争いに対抗しなければならなくなると、「明日よりも今日」となり、先進国の自動車産業や雇用を守る戦略が必要になる。
元々、厳しいCO2(二酸化炭素)規制は新興国への「参入障壁」のようなものだったのかも知れないが、逆になっている。
●まとめ
世界最大の「中国市場のEV化」+「地球環境/スマート社会=EV化」という図式で、多くの先進国カーメーカーはEV化を宣言した。しかし、現実的にEVは環境車としてまだまだ開発途中で、内燃機関(ICE)車より使えないのに高価という現実を世界のユーザーがやっと認識し始めたようだ。
しかも、ICE車を残すことは、先進国カーメーカーの優位性を残せる。そこでPHEV「推し活」となったような気がする。
しかし、PHEVもEVと同じくコスト高の技術で、しかもCO2規制には微妙だ。
やはり、性能とコストのバランスがとれた「真のエコカー技術」の開発が急がれる。
今後は、中国がEVで世界を席巻するのか?
欧州などが、PHEV推し活で巻き返すのか?
はたまた、合成燃料等で100%内燃機関になるのか?
「真のエコカー技術」が開発されるのか?
競争のある所にチャンスあり。いよいよ、自動車技術者の正念場だ。
〈プロフィル〉しげ・こうたろう 1979年ホンダ入社、34年間在籍し「CR―Xデルソル」「ライフ」「エリシオン」、2代目「フィット」「N―BOX」など数々のヒット車の開発責任者を務めた。2013年12月定年退職。現在は新聞やネット、雑誌で自動車関連記事を執筆している。1952年7月生まれ。