トヨタ自動車は、新型「RAV4」のプラグインハイブリッド車(PHV)にデンソー製のSiC(炭化ケイ素)のパワー半導体を採用する。トヨタがPHVにSiCパワー半導体を採用するのは初めて。SiCパワー半導体はコストが高く、自動車業界でも採用は一部にとどまる。トヨタはレクサスの新型「ES」などハイブリッド車(HV)にもSiCパワー半導体を用いる。量産効果により普及が進む可能性が出てきた。
SiCパワー半導体は、電動車の一般的なパワー半導体であるSi(シリコン)系よりも高耐圧(低損失)、高耐熱、高放熱が特徴のワイドバンドギャップ半導体で、電力損失の低減や、インバーターの大幅な小型・軽量化につながる利点がある。
デンソーは、独自構造により1チップ当たりの出力を高めたSiCパワー半導体を開発。製造面でも、結晶の原子配列の乱れで素子が正常に作動しなくなる「結晶欠陥」を半減させるウエハーを活用し、高品質と低コストを両立させたSiCパワー半導体をトヨタに供給する。
トヨタは、新型RAV4の前部eアクスル用パワーコントロールユニット(PCU)に、このSiCパワー半導体を採用する。RAV4のPHVでは、電池容量の増加とSiCパワー半導体効果により、EV走行距離が現行の95㌔㍍から150㌔㍍へ延びる見通し。
RAV4でも、負荷が小さい後部eアクスルや、HVのPCUには、効率とコストの観点からSi系パワー半導体を用いているが、26年春の新型ESから一部のHVにもSiCパワー半導体を採用していく。
半導体各社は、電動車向けSiCパワー半導体の需要増加を期待して開発や生産体制を拡充してきた。しかし、高コストのため、今のところ電動車への採用は限定的で、電気自動車(EV)市場の伸び悩みも追い打ちをかける。ルネサスエレクトロニクスは、高崎工場(群馬県高崎市)でSiCパワー半導体を量産する計画を延期。ロームもSiCパワー半導体への投資計画を引き下げた。
ただ、トヨタがHVにもSiCパワー半導体を搭載していく方針を打ち出したことで、SiCパワー半導体の量産が進み、コストが下がる可能性が出てきた。