トヨタはGR86のAT車を提供する
和やかなランチミーティングの様子
製品説明や就職相談は協賛企業のブースでも行われた

 大学の自動車部を対象としたジムカーナ競技「フォーミュラジムカーナ」の2025年シーズンが開幕した。大会はトヨタ自動車や日産自動車などメーカー4社に加え、部品メーカーなどが協賛する。今シーズンで3年目を迎えるこの競技では、出場選手が自動車メーカーに就職する例も出始めており、クルマ好きの学生を業界に呼び込む格好の場になりつつある。

 フォーミュラジムカーナは23年に始まった草の根モータースポーツだ。運転技術とチームワークを競うタイムトライアルレースで、競技車両やタイヤ、シートなどはすべて協賛企業が提供する。車両性能ではなく運転技術で勝負を決めるためのイコールコンディションを担保するためで、今シーズンはトヨタが「GR86」のオートマチックトランスミッション(AT)車、女子クラスには日産が「ノートオーラニスモ」の四輪駆動(4WD)車を提供する。

 この競技の特徴は、協賛企業によるリクルート活動が全面的に認められている点にある。大会期間中に学生と企業側が一緒に昼食を取る「ランチミーティング」が設定されており、学生が複数の企業担当者と話せるよう、途中で席替えも行われる。

 話題は競技に関することだけでなく、各企業の仕事に関することや就職に関する相談など多岐にわたる。一般的な会社説明会は服装も含め、ビジネスマナーに気を使うもののだが、ここではざっくばらんなコミュニケーションを取ることができる。メーカー側からも「学生に各企業を正しく理解してもらうための環境整備ができている」(トヨタ自動車GRモータースポーツ事業部GT事業室の大橋貴志エントリーモータースポーツグループ長)との声が上がる。

 競技会場では協賛企業がブースを出し、学生は競技時間の合間などに自由に訪問することができる。ランチミーティングとは異なり、企業にとっては車両や自社製品を示しながら話すことができるため「学生の仕事に対する理解度が深まるだけでなく、『こんな仕事もあるのか』と気づきの機会にもなっている」(日産自動車カスタマーパフォーマンス&車両性能技術開発本部先行車両性能開発部の北原栄一エキスパートリーダー)という。

 フォーミュラジムカーナがスタートして3年目だが、リクルーティングの効果も出始めている。日産にはこれまで、数人の学生が実際に入社したという。大会期間中のコミュニケーションだけでなく、大会後も就職相談を行うなど学生へのフォローを継続したことが奏功したようだ。

 一方で、課題も見えてきている。競技について「学生や企業に対する認知度は低い」(トヨタの大橋グループ長)のが実情だ。2年前のスタート当初、自動車メーカーの協賛はトヨタ、日産、マツダの3社だったが、今年からはスバルも参加するなど着実に広がりはみせている。ただ「リクルート活動」の名の下に潤沢な資金を投入できる企業ばかりではない。今後、費用対効果を高めていく工夫も求められそうだ。

 他方、運営サイドとして、学生側にも意識してもらいたいことがあるようだ。大会出場校には競技車両やパーツなどが提供されるだけでなく、一定の交通費、宿泊費なども支給される。学生に経済的な負担を負わせることなく、モータースポーツの楽しさやクルマを操る喜びを体験してもらうことが狙いだが、カスタマイズパーツメーカー関係者は「この環境が当たり前だと思わないでほしい。クルマ好きだからこそ、自動車業界の現状や、企業がなぜ大会に協力しているのかを理解し、この活動に取り組んでほしい」と話す。

 自動車業界の現状―。それは電動化やITによって懸念されるクルマのコモディティー(日用品)化や、ソフトウエアが車の進化を決めるSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)の潮流、そして若者のクルマ離れなどが渾然一体となって進んでいるさまを指す。

 「走る喜び、操る楽しさ」という車の本質的な価値に関心を示さないユーザーも少なくない中で、フォーミュラジムカーナに参加する学生は貴重な存在ともいえる。若者がこれからも車に魅力を感じ続け、自動車産業が日本経済の屋台骨であり続けるためにも、フォーミュラジムカーナが「各企業とクルマ好きの学生が自動車業界を支えようとする熱意」(トヨタの大橋グループ長)を生み出し、共有する場になっていくことを期待したい。

(編集委員・水町 友洋)