高島屋に出店したアウディシティ日本橋
アウディシティ銀座
16年に閉館した直営ショールーム「アウディ・フォーラム東京」

 フォルクスワーゲングループジャパン(VGJ、マティアス・シェーパース社長、愛知県豊橋市)のアウディ部門が、新車を売らないブランド発信拠点の展開を進めている。2024年12月に第1号店「アウディシティ銀座」(東京都中央区)をオープンしたのに続いて、今月、「同日本橋」(同)も開店した。ブランド発信拠点そのものは珍しくないが、アウディの特徴は運営主体が販売会社であること。実はかつて直営拠点があった同部門。そこでの経験を踏まえ、シェーパース社長は「インポーターだけでブランドを発信しても効果は限定的になる」と狙いを語る。

 新拠点は百貨店「日本橋髙島屋S.C.」の新館1階の正面口に面したエリアに設けた。店内には電気自動車(EV)を1台展示するとともに、同拠点オリジナルのグッズなどを陳列。ショールームにはドアを設けず、百貨店に買い物目的で来店した人が立ち寄りやすいような設計となっている。

 銀座に設けた1号店は、夜をイメージして黒を基調にしたデザインとした。一方、日本橋の拠点は老舗百貨店とマッチする落ち着いた雰囲気を重視したという。アウディシティ日本橋では今後、百貨店に出店している飲食店などとコラボレーションした企画を検討するなど、顧客を引き付ける施策を打っていく考えだ。店舗の立地を生かした独自イベントを行うのは、1号店も一緒だ。

 運営主体はインポーターではなく、販売会社だ。1号店はMIDアルファ(旧北海道ブブ、札幌市東区)、2号店はアウディフォルクスワーゲンリテールジャパン(AVRJ、イヴァイエロ・プレフ社長、東京都世田谷区)となっている。いずれもVGJと直接的な資本関係がない。

 こうした車を販売しないブランド発信拠点は、自動車メーカーや輸入車インポーターが直営で運営するケースが多い。車両の販売や整備を行わないため、販社にとっては負担が重いためだ。ここ数年でもボルボ・カー・ジャパン(VCJ、不動奈緒美社長、東京都港区)やビー・エム・ダブリュー(BMWジャパン、長谷川正敏社長、東京都港区)、マツダなどが都内の一等地に拠点を設けたが、運営に販社は関わっていない。

 こうした中でも、シェーパース社長は、有力販売会社が運営するブランド発信拠点を都市部などに増やしていく方針にこだわる。その背景には、これまでの経験から得た問題意識がある。

 実はアウディも16年に閉館するまで、直営の常設ブランド発信拠点「アウディ・フォーラム東京」を渋谷区で運営していた。現在の拠点よりも規模は大きく、ブランドの認知向上にも一定の効果があったのは事実。ただ、シェーパース社長は「投資額の割に、効果が一定のエリアに限られてしまう」との課題があったことも明かす。そこで、今回は運営を販売会社に任せ、各地域の特色を反映した小規模な拠点を複数展開していく方針に切り替えた。

 販売会社に委ねる難しさもある。情報発信拠点という特性上、多くの地域からの来店が見込めるが、自社の店舗がないエリアのユーザーが興味を示した場合、それを飛び越えて自社拠点に送客したいのが本音だ。それをすると、顧客の利便性にとってはマイナスであり、かえってブランドイメージの低下を招く懸念もあることから、近くの販売店を紹介するケースが一般的だ。

 ライバルの販売店に塩を送ることにもなるが、それでも販売会社がブランド拠点を運営するメリットは何か。AVRJでブランド戦略を担当する海老原育博さんは「自社の店舗では捉えられない情報を取得できること」という。幅広い来店客に触れることで、効果的な販売促進策や出店計画に生かせるとみている。また、商談する店舗はあくまで顧客が選ぶため、顧客満足(CS)の高い接客を実現できれば多少遠くても、自社の店舗を選んでもらえる可能性もある。

 一方、こうした「売らないショールーム」の先駆け的な存在だったメルセデス・ベンツ日本(MBJ、ゲルティンガー剛社長兼CEO)の「メルセデスミー東京」は、25年度中に移転新築を予定している。同社ではこれを機に、商談を行う方針に切り替えるという。輸入車勢にとって、国内市場でシェアを高めるにはさらなる認知向上が必要だが、その重要な場となるブランド発信拠点をめぐっては、今後も各陣営間でスタンスが分かれそうだ。

(水鳥 友哉)