アドバンストパークは超音波とカメラで全周囲を監視し、すべての操作を車が支援
パーキングサポートブレーキは加速抑制とブレーキ制御で衝突回避を支援

 モビリティカンパニーへの変革を進めるトヨタ自動車が、安全技術の進化を加速させている。衝突安全ボディー「GOA(ゴア)」の発表から30年、予防安全パッケージ「トヨタセーフティセンス」(TSS)の実用化から10年が経過するなど、パッシブ(受動)、アクティブ(予防)の両面から着実に安全性を高めてきた。さらに、人工知能(AI)の活用とインフラとの協調を含めた「人・車・インフラ」の三位一体で構成する次世代安全技術を確立することで、交通事故死傷者ゼロの実現に寄与していく考えだ。

 車の安全対策には、衝撃吸収ボディーやエアバッグ、ポップアップフードなど衝突時に乗員や歩行者の安全を確保するパッシブセーフティーと、ABS(アンチロックブレーキシステム)やVSC(横滑り防止装置)など衝突を未然に防止するアクティブセーフティーという2つの考え方がある。

 GOAはパッシブセーフティー、TSSはアクティブセーフティーの代表例だが、トヨタではさまざまなシステムを個別の安全装備としてだけではなく、各システムを連携させることで高い安全性を追求する「統合安全コンセプト」を技術開発の根幹に据えている。現在、受動・予防安全ともに多くの装備や機能を実用化しており、駐車から通常走行、事故直前、衝突時、事故直後の救助まで、それぞれの段階において最適なドライバー支援を行う。

 トヨタは「安全は普及してこそ」との考えで進化させてきた。衝突安全技術では1995年の開発から30年を迎えたGOAに加えて、乗員の胸腹部障害を軽減させる技術としてシートベルトのプリテンショナーやフォースリミッター、頭部障害に対してはカーテンシールドエアバッグを開発するなど、新しい乗員保護装置の標準装備化を進めている。

 また、事故直後の乗員を守る手段として救命率の向上にも取り組んでいる。2018年6月には救急自動通報システム「Dコール ネット」の全国運用を消防や病院などの協力を得て本格的にスタート。治療開始までの時間を約20分に短縮した。

 歩行者保護の観点では、これまでダミー人形で行っていた障害度合いの把握をバーチャル人体モデル「サムス」で行う技術を開発。これにより年齢や性別、体格の違いから、骨や筋肉、臓器への障害度合いも正しく評価できるようになった。サムスについては20年にその技術を無償で公開。メーカーや産業の垣根を越えて安全技術を普及させる環境づくりにも力を入れている。

 予防安全技術については、人が運転をするために行う「認知」「判断」「操作」を支援する技術開発を行っている。急ブレーキ時に安全に停止できるABSや、カーブなどで不安定になった車両を制御するVSC、衝突の危険性を認知して回避または被害軽減を支援する「プリクラッシュセーフティ」(PCS)など、これまでさまざまな技術を開発してきた。

 さらにTSSでは、PCSやレーダークルーズコントロールなどの安全運転支援技術をパッケージ化し、認知・判断・操作のすべての運転行動を支援する。逆光下などでも誤認識や誤作動をさせない作り込みにこだわって開発しており、世界中の道で200万㌔㍍の走行検証を重ねてきたという。

 あらゆる状況下で作動する予防安全パッケージを開発したことで、15年に実用化したTSSは普及が進み、25年1月末現在、グローバルで約5300万台、国内で約1080万台に搭載している。

 自動車安全技術の普及により交通事故の死者数、発生件数は減少を続けてきたが、近年はその減少速度が鈍化傾向にある。トヨタで安全技術開発を手掛けるくるま開発センターの御沓悟司フェローは「さらなる交通事故低減には新たなアプローチが必要になる」とみており、今後は既存の衝突・予防安全技術のレベルアップとともに、人や車の行動を予測して対処するためのAI活用や、通信などのインフラと協調した安全技術開発を進めていく方針だ。

 AIについては、対向車の右折など車や人の予期できない行動を予測するために活用する。車両センサーが相手を認識していても防げていない事故ケースだ。

 一方、インフラ協調については、出合い頭や飛び出しなど「直前まで車両センサーで相手の認識が困難な事故形態に対して、通信などのインフラ協調技術が必要になる」(御沓フェロー)という。このため、AI・通信基盤の構築で協業しているNTTなどパートナー企業とともに技術構築を進めていく考えだ。