損害保険会社から保険代理店への出向者が情報漏えいなどを起こした問題で、損保大手4社の出向者数が2024年9月時点で計約1300人だったことが判明した。多い社、少ない社とばらつきがあった。日本損害保険協会(損保協、城田宏明会長=東京海上日動火災保険社長)では、営業目的の出向を禁止するガイドラインを24年秋にまとめた。これに基づき、各社は25年春の異動期に向け、引き揚げを代理店と協議している。ただ、難航している社もあり、出向者問題に区切りがつくのには時間がかかりそうだ。
日刊自動車新聞が4社(東京海上日動、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)から回答を得て集計した。旧ビッグモーターの自動車保険金の不正請求問題が表面化する前の23年3月末時点では、保険代理店への出向者数(グループの代理店や転籍前提の出向を除く)は、4社で約1600人だった。
この時点で、出向が多い社と少ない社に分かれている。各社で異なる成長の経緯の中で、営業強化の分野や方法などに違いがあったことが一因とみられる。
ただ、23年7月に自動車保険金の不正請求が表面化。対策を進めてきた金融庁では、ディーラーを含む大規模兼業代理店への「過剰な便宜供与」として出向者も問題視した。見返りとしてその社の保険を販売するシステムがあったからだ。こうした環境の変化もあり、24年3月には約1400人に減った。
その後、同年春から夏にかけて、損保4社の大規模な情報漏えい案件が明らかになった。大規模兼業代理店が業務を損保各社に事実上任せたためのものと、損保からの出向者が他社の情報を意図的に持ち出したケースと2タイプある。
事態を重く見た金融庁では4社に対して7月、11月と2回の報告徴求命令を出した。出向者が、事実上代理店の業務を肩代わりする「二重構造」によって、代理店の自律を妨げているとも指摘。出向者の引き揚げが必要との大きな流れにつながった。
ここ1年半の出向者数を各社別にみると、減少数に差が出ている。「引き揚げ時期についてほぼ代理店の了解を得られた」「ほぼ順調」と話す損保がある一方、時間がかかっているところもある。出向者が担っていた業務を従業員に引き継ぐ必要があるディーラー側から、「すぐに人を採用できない」などと言われるようだ。日本自動車販売協会連合会(自販連、加藤敏彦会長)によると、会員から「業務に深刻な支障が出る」との声が最近も多く寄せられるという。
こうした代理店の事情を理解しながらも、損保が出向者の引き揚げを進めたいのは、情報漏えい問題があるからだ。トヨタ自動車の子会社のトヨタモビリティ東京(佐藤康彦社長、東京都港区)に対して金融庁は1月24日付で行政処分(業務改善命令)を出した。3年間にわたり、複数の損保社員が同社の個人データ(2万~3万人)にアクセスできる状態になっていた。大きな背景として、出向問題があるとみる社は多い。情報漏えい問題では、金融庁が4社に行政処分を出す可能性もある。
損保ジャパンは昨年末、26年3月末に「代理店等への出向者数(同社の基準でカウント)を、24年9月時点に比べて9割超減らす」と打ち出している。ほかの3社も、原則出向者はゼロか、ゼロに近付ける方針だが、具体的な数字は開示していない。出向者が減っていくのは間違いないとみられるが、26年春の段階でどの水準になるかはまだ分からない。
(編集委員・小山田 研慈)