EV普及が踊り場の中でHVが躍進(トヨタ「ヤリスクロス」)

 排ガス不正でイメージが地に墜ちたクリーンディーゼルに見切りをつけ、官民で電気自動車(EV)へと舵を切った欧州。勇ましかったのもつい2~3年前まで。欧州勢は電動化計画を軒並み修正し、フォルクスワーゲン(VW)やメガサプライヤーはリストラに奔走する。製造業のコスト競争力を左右するエネルギー政策も迷走気味で、欧州の〝厳しい冬〟はしばらく続きそうだ。

 欧州自動車工業会(ACEA)によると、2024年の欧州でのEV販売は前年比1.3%減の199万3102台となり、18年以降、初めて前年割れとなった。割高なEVの普及には助成が不可欠だが、いつまでも大盤振る舞いはできない。スウェーデンは22年末に、ドイツは23年末に補助金を打ち切った。フランスがアジア製のEVを補助金の対象外とするなど、各国が優遇策を絞った結果、普及ペースは一気に鈍化した。

 一方で、販売を伸ばしたのがハイブリッド車(HV)だ。24年は406万8308台(同19.6%増)で、新車販売の3割を占め、ガソリン車(33.0%)に肉薄している。EVに比べて価格が安いことや、燃費の良さなどが評価されている。

 トヨタ自動車は「ヤリスクロス」や「ヤリス」「カローラ」などのHVが人気で、HV販売は前年比で1割近く(9%)増えた。日産自動車も「eパワー」搭載車の販売が10万台を超えた。

 ただ、欧州では二酸化炭素(CO2)規制の厳格化で内燃機関搭載車の存続に黄信号が灯る。企業平均燃費(CAFE)ベースで、25年分はトヨタをはじめ多くの自動車メーカーが未達だ。ある自動車メーカーの開発担当者は「CAFE規制で燃費の悪い車は売れない。欧州の商品を見直す必要がある」と明かす。CO2排出権を業界内でやりとりする「オープンプール」も費用がかさむ。欧州の自動車工業会と自動車部品工業会はCO2規制の先送りを求める文書を出した。

 欧州の自動車メーカーは事業方針の修正に大わらわだ。メルセデス・ベンツは30年に新車のすべてをEVにする目標を撤回。プラグインハイブリッド車(PHV)を含めたEV比率を5割へ引き上げる時期も25年から「20年代後半」に修正した。

 オラ・ケレニウス最高経営責任者(CEO)は「市場に製品を押し付けることで人為的に目標を達成しようというのは理にかなっていない」と語った。

 VWもEVの販売が低迷。独国内の工場閉鎖は労組の抵抗で見送ったが、30年までに独で3万5千人以上の従業員を減らす。電動化やソフト領域に重点投資していたボッシュやシェフラー、ZFなどの部品大手も一転して人員削減に奔走。24年だけでも5万人もしくは10万人の従業員が削減されたともされる。

 再生可能エネルギー比率の高さも追い風にEVシフトの先頭を走るはずだったシナリオは完全に狂った。それどころか、国策としてEV開発を進めた中国勢のEVを域内に呼び込む羽目に。欧州委員会は「不公正な補助金」を理由に中国製EVに上乗せ関税をかけたが、テスラとBMWが欧州委を提訴するなど混乱が続く。

 「自動車産業は欧州の誇りだ。大きく破壊的な移行期においてこの産業を支援する必要がある」。フォンデアライエン欧州委員長は、域内の自動車産業と「ストラテジックダイアログ(戦略的対話)」を今年から始めた。ここ10年ほど迷走した域内自動車政策の〝反省会〟だ。EVの本格普及にはまだ時間がかかる。ドイツ製造業の不振、フランス政局の混迷、移民やエネルギー政策を巡る混乱など、数々の課題を乗り越え、自動車産業を立て直せるか。欧州は正念場に差し掛かる。