電気自動車(EV)で車づくりが変わろうとしている。ボディー(車体)部品もその一つだ。新興勢を中心にアルミ大型一体鋳造技術「ギガキャスト」の採用が進む一方、既存の鉄鋼メーカーやプレス部品メーカーも新しい技術・製品を開発し、対抗する。剛性や軽量性といった性能の追求とともに、手掛ける部品や領域をどこまで広げられるかも競争軸になっている。
型締め力が6千㌧級以上の鋳造機を用いるギガキャストは、車両の部品点数削減に貢献する技術として注目されている。すでに米テスラや浙江吉利汽車(ジーリー)、小鵬汽車(シャオペン)などで実用化されており、特に中国メーカーにおいては、その武器である開発・生産スピードの要因の一つにもなっている。
日本勢には馴染みが薄い技術ではあるが、2020年代後半にかけて採用を予定する企業も出てきた。トヨタ自動車や日産自動車は、27年以降に投入するEVでギガキャストの技術を用いる計画で、アンダーボディー周辺の100点以上の部品を一体成形できると見込む。ホンダもバッテリーケースでギガキャストを採用する計画だ。
部品・機械メーカーもこの動きに協調する。リョービは来年、6千㌧級のダイカストマシンを用いた試作サービスを始める予定だ。また、芝浦機械は国内メーカー最大の型締め力となる1万2千㌧の鋳造機を製造する計画で、国内外のメーカーへの供給を見込む。中国の工作機械メーカー、力勁科技集団(LKテクノロジー・ホールディングス)日本法人の林文勇代表は、「中国メーカーでは続々と採用が進んでいる状況。日本メーカーは(ギガキャストでは)後発だが、今後ニーズは確実に出てくる。実際、日系企業からも打診がきている」と語る。
一方、内燃機関車でイニシアチブを握ってきた既存の部品、鉄鋼メーカーも一体化技術開発を急ぐ。ジーテクトとアーレスティは、プレス部品とアルミダイカストを接合した車体部品「リアフレームモジュール」を協業で開発した。元々、ジーテクトは骨格周りのプレス部品、アーレスティはエンジン周りなどのダイカスト部品を手掛けており、今回の協業では鉄とアルミの異材接合に挑戦した。30年頃に量産を目指すリアフレームモジュールは、従来、プレス部品38点で構成されていた部位をダイカスト部品1点に集約したことで、既存製品に対し重量を最大で約16%軽量化できるという。ギガキャストで一体成形する流れが生まれれば、2社が手掛ける部品は、ギガキャストへの置き換えが進む領域になることが予想される。アーレスティの峯憲一郎執行役員は、「コストと軽量性でギガキャストに対抗する」と明言する。
鉄鋼メーカーも対抗策を練る。日本製鉄はリアフレームなどの部品19点を、ホットスタンプ(熱間プレス)を用いて1点に集約した「リアアンダーモジュール」を開発した。JFEスチールも冷間プレスを用いて、Aピラー(前部支柱)やレールアウター周辺部品の一体化に取り組んでいる。2社とも20年代後半の本格採用を目指しており、今後、手掛ける領域や部品をさらに拡大していく方針だ。EV車体においても、鉄の剛性と既存の設備をそのまま用いることができるメリットが生かせるとして、採用につなげていく。
EVをめぐる各社の陣取り合戦は、技術開発や量産車への採用が本格化していく20年代後半にかけて、さらに激しくなることが予想される。来年以降の各社の動向に注目が集まる。