電気自動車(EV)の販売増に収益が伴わない〝成長痛〟に日本の自動車メーカーも直面し始めた。EV販売そのものは増え始めたが、米国でインセンティブ(販売奨励金)の積み増しや値引きを迫られている。技術革新などでEVのコスト削減を急ぐ各社だが、こうした取り組みの成果が出るのはまだ先だ。当面はEVの拡販に伴う収益の悪化をハイブリッド車(HV)で補う状況が続きそうだ。
日本メーカーによる米国でのEV販売の出足は順調だ。米調査会社、コックス・オートモーティブの推計によると、7~9月の米国のブランド別EV販売はホンダ(アキュラ除く)が1万2644台(前年同期実績はゼロ)で一気に7位へと浮上。日産自動車は1万66台(前年同期比65.7%増)で10位、トヨタ自動車も4109台(同45.9%増)で15位と軒並み2桁増の勢いだ。テスラなど先行勢の背中はまだ遠いが、欧州メーカーの失速などでEVの全需が34万6309台(前年同期比11.0%増)と成長率が鈍化し始めたが中、これまでの遅れを取り戻しつつある。
ただ、台数と収益は必ずしも比例しない。ガソリン車以上にEVのインセンティブが上昇傾向にあるからだ。コックスによると、同期間における業界全体の小売価格に占めるインセンティブ比率は7%だったが、EVは12%以上で推移した。EVの平均価格は「5万7千㌦強」としているため、金額ベースでは1台あたり約7千㌦(約107万円)になる。
競合他社のこうした動きに追随し、日本メーカーもインセンティブや値引きに頼らざるを得ない状況だ。6日にホンダが発表した24年4~9月期の営業利益は過去最高だったが、通期の業績見通しは据え置いた。好調な二輪やHVで利益を稼いだが、EVのインセンティブが「想定よりも7千㌦ほど膨らんでいる」(青山真二副社長)ことが利益を圧迫しているという。日産自動車も今年3月に「アリア」をグレードにより最大で6千㌦(約92万円)も値下げした。
26年モデルを投入する25年以降はさらにインセンティブの引き上げ圧力が強まる可能性もある。カリフォルニア州でゼロエミッション車(ZEV)の新規制「アドバンスドクリーンカーズⅡ(ACC2)」が始まるためだ。トランプ政権が修正を試みる可能性が出てきたが、ACC2では26年モデルでZEV比率35%を求められ、35年には100%になる。クレジットのやりとりなど、必ずしもZEV比率を満たす必要はないが、EV販売を大幅に積み増す必要があることは変わらない。
ホンダは、来年にも投入する次世代EVの商品力を強みにZEV比率を高める方針だが、適正な利益を確保した上で厳しくなる規制に適合させていくのは容易ではない。
巨費を投じてEVの生産体制を整えつつある日本メーカーだが、車両のコスト削減を急ぎつつ、インセンティブやクレジット枠の購入などをいかにバランスさせ、EVシフトと収益を両立させていくかが課題になりそうだ。