ヤマハ発動機は31日、車いす電動化ユニットを約10年ぶりに発売するとともに、車いすの完成車の製造販売から撤退すると明らかにした。今後は電動化ユニットを自動搬送装置(AGV)など他領域にも展開していくほか、海外展開も視野に入れる。同社では電動アシスト自転車も手掛けており、乗用車用のeアクスルの開発も進めている。一連の電動駆動技術を軸に、さまざまなモビリティへの展開を急ぐことで、収益拡大につなげる狙いだ。
2025年1月に国内発売する「JWG―1」は、モーターや電池といった駆動装置や操作部などを手動の車いすに取り付けて電動化する。スペックは海外市場も見据え、タイヤ軸トルクを従来の2倍近い片側50.1ニュートン㍍に高めたほか、耐荷重量も160㌔㌘へと約30%高めた。オプションで「ノーパンクタイヤ」やトルク特性などを無線通信で調整できる機能も用意した。
電動車いすの国内出荷台数は、高齢者向けの「シニアカー」を含めても約2万1千台(23年)。車いす全体の5%程度にとどまるが、このうち約20%に当たる4千~5千台をヤマハ発の製品が占めているという。これまでは完成車も年間約2千台製造していたが、25年3月末で完成車事業を終了する。この「選択と集中」の狙いについて、LM事業本部SPV事業部JWビジネス部の高橋愛部長は「事業環境に変化があった訳ではない」とした上で、「強みのドライブユニットに集中し、フレームメーカーとの『協創』を優先する」と語る。
今後は電動化ユニットの専業メーカーとして、車いすメーカーに部品を供給しながら、米欧豪などへの展開も見据える。また、福祉機器以外への技術活用も模索している。すでに、要素技術は同社製のAGVにも生かされていることから、工場内の自動搬送システムなどへの応用も視野に入れている。
ヤマハ発は1995年から乗員自らが制御できる「ジョイスティックタイプ」の電動車いすを製造する傍ら、電動アシスト自転車や電動二輪車も手掛けてきた。また、eアクスルでは英ケータハムカーズの電気自動車(EV)の開発に参画。レース「フォーミュラE」にも、12月に開幕する新シーズンから、電動動力ユニットを供給することが決まっている。同社では小型・高効率で、高い信頼性を自負する電動駆動ユニットをさまざまなモビリティに展開することで、人やモノの移動を支えていく考えだ。