トヨタ自動車は23日、愛知県刈谷市の水素ステーション(ST)で液体水素を車両に直接、充塡する実証の様子を報道公開した。既存の水素STが持つ液体水素貯槽に「移動式液体水素充塡装置」を接続することで、既存設備を活用して液体水素を充塡できるようにした。液体水素は気体よりもエネルギー密度が高く、FCVや水素エンジン車の航続距離を大幅に延ばすことが可能だ。水素エンジンプロジェクトの伊東直昭主査は「(水素は)気体も液体もメリットがある。クルマもインフラも『マルチパスウェイ(全方位)』だ」とし、既存インフラをうまく活用しながら水素活用の〝多様性〟を探る考えを示した。
移動式液体水素充塡装置はトヨタと岩谷産業が共同開発した。既存の水素STに設置されている液体水素タンクに気体用と液体用に水素を分配できる接合部を設置し、開発した装置を通じて液体水素を直接、車両に充塡した。今回、実証で使用した車両は、スーパー耐久シリーズに参戦する水素エンジン車「GRカローラ」。充塡時間はレースだと1分程度で完了するが、今回はデータ取得のためにペースを落として充填した。
トヨタのFCV「ミライ」は、70㍋ パスカル (約690気圧)という高圧の気体水素を車両に充塡している。岩谷産業が運営する国内51カ所の水素STの8割は液体の状態で水素を貯蔵しており、設備内で液体水素を気化し、高圧をかけて車両に充塡している。直接、車両に液体水素を充填すれば気化や昇圧の装置が不要となり、水素STの省スペース化や低コスト化につながる。
一方で、液体水素はマイナス253度に保つ必要があるため、車両に充填するには相応の技術が求められる。トヨタは耐久レースに参戦する水素エンジン車に液体水素を用い、過酷なレース環境で技術を磨いている。