電池サプライチェーン協議会のブースを視察する佐藤副会長
日産傘下のフォーアールエナジーも電池回収量拡大に注力する

 車載電池のトレーサビリティー(追従性)をデジタル管理し簡易に表示できるようにする「電池パスポート」について、日本自動車工業会の佐藤恒治副会長(トヨタ自動車社長)は「電池が持つ残存価値が正確に判断できるデータがあれば、次の価値を生み出すことができる」と話し、劣化判定の必要性を強調した。電池パスポートは欧州で2026年にも義務化される見通し。相互認証を目指す〝日本版電池パスポート〟では電池残量を把握できる仕組みを導入することで、同制度の枠組みの中で使用済み電池の活用推進にもつなげる考えを示した。

 佐藤副会長は18日まで幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催していたジャパンモビリティショー(JMS)ビズウィークを視察し、日刊自動車新聞らの取材に応じた。佐藤副会長は、自工会が掲げる課題の中で「重要資源の安定調達/供給網の構築」を担当しており、電気自動車(EV)の主要部品である電池の材料調達から二次利用やリサイクルなどの検討を進めている。佐藤副会長は「電池パスポートにはエコシステムをしっかり回していくために必要な情報を埋め込んでいくべき」と述べた。

 電池パスポートでは、EVに搭載する電池について材料の採掘地域やリサイクル可能な材料の割合、製造過程における二酸化炭素(CO2)の排出量、さらにはサプライチェーン上の労働環境などを記録する。欧州では26年にも電池パスポートが必要となり、自動車メーカーから部品メーカー、リサイクル事業者などが対応を求められる。

 一方、国内では欧州のような規制はないものの、「データ連携については、日本でも同様の仕組みの構築が不可欠」(経済産業省)との考えから、国内で開発を進めている産業データ基盤「ウラノス・エコシステム」を活用し、欧州の電池パスポートとの連携に向けて官民が協力して取り組みを進めている。佐藤副会長は、電池の劣化判定について「欧州で進んでいるものに対して、もう少し情報を加えてあげるだけでそれはできると思う」との考えを示した。

 車載電池の二次利用やリサイクルをめぐっては、国内で利用された電動車の多くが最終的に輸出されてしまう問題もある。佐藤副会長は「せっかく海外から資源を買ってきてクルマに電池を積んでも、クルマの状態で海外に出て行ってしまう。電池に関してはクローズドループで、ある一定量は国内で回していく必要がある」と話す。

 JMSのスタートアップブースで佐藤副会長が注目したのが、EV車載電池用診断装置を開発する電知(向山大吉社長、埼玉県本庄市)だ。EVの急速充電ポートにコネクターを挿入し、微小放電することで車載電池パックの状態を数十秒で診断するという。佐藤副会長は「電池の劣化具合が分かれば自信を持って中古車の価格を付けることができる。中古車の値段が上がれば新車需要に対してポジティブな作用が働く。電池の劣化判定をいかに精度良く簡便にやることができるかが重要だ」と説く。

 JMSのビジネスセッションでは、リチウムイオン電池を開発した吉野彰教授も電池パスポートについて「重要なのはきれいな電力があるエリアで生産することと、リサイクルの技術が確立されているかだ」と言及した。電動車の使用済み電池は個々に劣化度合いが異なるほか、流通経路についても確立されていない。トレーサビリティーを高める電池パスポートを活用し、いかに電池のリユースやリサイクルにつなげることができるか注目される。

(福井 友則)