4月末に公表されたCFP表示義務化の細則
欧州で電動車が売れなくなる

 欧州電池規則によるカーボンフットプリント(CFP)の開示義務化まで残すところ約1年になった。日本の自動車産業は、官民一体となって電池のデータを共有・運用する仕組みを整備し、CFPの算出を急ぐ。欧州電池規則は、対応できなければ欧州で電動車を販売できなくなるほか、自動車メーカーの部品調達にも支障をきたす可能性がある。CFP適用の開始時期は当初よりも遅れているが、日本の電動車の競争力を左右する大きな転換点となる。

LCAでの排出ガスCO2換算で表示

 CFPは、原材料の調達から製品廃棄までのライフサイクル全体で排出される温室効果ガス(GHG)を把握し、二酸化炭素(CO2)換算で表示するもの。

 欧州電池規則は、23年8月に施行された。CFPの開示や上限規制、材料採掘時の人権問題のデューデリジェンス、リサイクル材料の使用義務などが段階的に追加、厳格化される。

 直近に控えるのがCFPの開示義務化だ。当初予定よりも遅れたが、今年4月30日に細則を公表し、5月末にパブリックコメントの受付を終了。その結果を踏まえ、欧州連合(EU)理事会や欧州議会で承認し、一定の移行期間を経て適用が始まる。CFPツールを手掛けるゼロボードは「25年8月末から9月中あたりに適用が始まるだろう」と見通しを示す。

 対象には電気自動車(EV)だけではなく、25㌔㌘を超える電池を搭載したハイブリッド車(HV)も含まれる。日本メーカーの欧州市場の事業規模は米国や中国と比べて小さいが、それでも需要が旺盛なHVまで販売できなくなれば事業に与えるインパクトは小さくない。

 もっとも、欧州電池規則が当初の計画通りに進むかどうかは不透明だ。

 同規則はもともと中国製の電池の排除を目的に始まった。独フォルクスワーゲンによるディーゼルエンジンの排ガス不正を契機にEVシフトを仕掛けた欧州だが、電池のコスト競争力に優れる中国勢のEVの流入が拡大。これを受けて欧州が取った手段が、環境性能や材料採掘の人権問題などを理由に〝質が悪い〟電池を排除する電池規則、という見方が一般的だ。

 ただ、中国の電池サプライチェーン(供給網)を避けては欧州勢もEVを造れないのが実情だ。関係者はそうした状況を踏まえて「欧州は今、〝また裂き〟の状態。この先、規則(の施行)が遅れていく可能性は十分にある」と指摘する。

 とはいえ、対応が遅れれば大きな事業リスクになる。逆に「日本の電池は品質が高い」(政府関係者)だけに規則に準拠すれば商機が広がる可能性もある。日本の自動車メーカーや電池メーカーは日本のデータ連携基盤「ウラノス・エコシステム」を円滑に活用して同規則に対応するため、業界団体とともに「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター」(ABtC)を設立。CFPの算出を急ぐとともに、その後に適用されるCFPの上限規制を見据えたCO2の排出量削減やリサイクル材の適用に向けた検討を進める。

カテナ-Xとの相互運用25年にも

 一方、政府が中心となって進めているのが欧州の自動車データ連携基盤「カテナ―Ⅹ」との連携だ。電池規則への準拠は必ずしもカテナ―Xを経由する必要はないが、カテナ―Xとウラノス・エコシステムを連携できれば企業側の負担は軽減できる。情報処理推進機構(IPA)は4月、カテナ―Xと相互運用を目指す覚書を締結。早ければ25年にも連携を始める。

 欧州電池規則関連のデータ連携で直接的に関わる日本企業の数は、自動車メーカーや電池メーカーなど200社程度だ。ただ、今後は車両全体のCFPの可視化やサプライチェーンの異常検知などでもデータ連携の重要性が高まる。政府もウラノスを活用した実証実験を24年度内に始める予定だ。今後の日本の産業競争力を強化していくためには、電池以外のサプライヤー一社一社がデータと向き合う必要がありそうだ。

(水鳥 友哉)