トヨタ自動車はレース車のボディー剛性を高める新たな溶接技術を開発した。通常、職人が手作業で行うレース車向け「ロールケージ」の溶接をロボットが行い、溶接部の強度の向上と軽量化を実現した。また、ロールケージを事前に組付けることで作業性を高め、製作時間を従来の2~3週間から3日に短縮した。ロールケージに限らずボディー剛性を高めるための溶接技術として活用できるため、今後、市販車への投入も検討していく。
産業用ロボット大手の安川電機と共同開発した。一般的にレース車のロールケージは、放電現象を利用した「アーク溶接」によって職人が鋼管を手作業で溶接する。ただ、高度な技術を持つ熟練工でないと作業が難しいほか、製作期間の長さが課題となっている。
新工法「シークエンス・フリージング・アーク溶接(SFA)」は、ロボットアームに熟練工の複雑な動作を教示(ティーチング)するとともに、手作業では難しい溶接品質を実現したという。これにより溶接部は熱ひずみが少なく溶け込みが深くできるという。また、アーク溶接ながら「スポット溶接」のような「ショット溶接」も可能になるという。
新工法では2~3㍉㍍の隙間がある箇所や、5㍉㍍を超える薄板を接合する「ブリッジ溶接」も実現する。これまでのアーク溶接だと溶加材が肉厚になってしまうが、新工法では母材を少し溶かしながら溶接するため溶接部の肉厚を最小限にできるという。これにより、SFA工法による溶接部の破断強度は従来の手作業に比べて10~25%高く、さらに重量は25%軽くできる。
新工法では作業性を向上させるために、ロールケージを3つに分割することで事前に組み付けし、車内に取り付ける手法を採り入れた。レース車両が事故にあってボディーが大破した場合、従来のようにロールケージ製作に3週間かかると次のレースに出場できない可能性がある。新工法で事前に組み付ける手法を採り入れたことで製作期間を大幅に短縮することが可能となった。
トヨタは9月、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催されたスーパー耐久シリーズ第5戦にSFAによってロールケージを組み付けた「GRヤリス」で参戦した。ガズーレーシングカンパニーの高橋智也プレジデントは「ボディー剛性が格段に違う」と話し、ボディー剛性が高まったことでサスペンションの設定自由度が増したという。また、高橋プレジデントは「通常のスポット溶接した後にアーク溶接の工程を付け足していくことで車全体の剛性が大幅に上がる。これはレーシングカーだけでなく市販車にも十分生かせる技術だ」と語った。
(福井 友則)