集められた使用済みの車載電池

 車載電池の資源循環により、2050年には国内で約8兆円規模の関連市場を生み出せる可能性がある―。日本総合研究所(谷崎勝教社長、東京都品川区)は、車載電池の国内サーキュラーエコノミー(循環型経済)市場に関する将来予測を発表した。電池と材料の再利用に加え、品質評価や保険といった関連サービスも成長余地がある。ただ、現在は電気自動車(EV)や車載電池の多くは輸出されている。同社は「市場を成長軌道に乗せるにはエンドユーザー側の意識変容も必要だ」と指摘する。

 車載電池は、レアメタル(希少金属)を含む資源の偏在問題や、採掘時の環境負荷が世界的なリスクとして懸念されている。サーキュラーエコノミーは、こうした問題への対応だけでなく、資源を循環させて新市場をつくり出すことを目指す考え方だ。

 「EVシフト」の起点である欧州では15年ごろから政策と連動して取り組まれ、中国も政府主導でリサイクルとトレーサビリティー(追跡性)の仕組みづくりが進む。日本でも経済産業省が取り組みを始めるが、産業競争力の強化に向けては道半ばだ。

 同社は、市場の将来予測に当たり①中古EVの売買関連市場②電池の再利用に関する市場③希少鉱物などのリサイクル関連市場―の3つに分けて現状や将来を分析。30年には合わせて6千億円、50年には7兆9千億円規模に国内市場が成長すると試算した。

 ただ「実現には課題も多い」と同社の籾山嵩シニアコンサルタントは指摘する。最大の問題は、国内の中古EV市場が未成熟であることだ。同社の分析では、23年には約2万台の中古EVが輸出されており、特に21年以降、輸出が急増していると試算する。

 この背景には、電池の性能低下による航続距離への不安といったユーザー心理があると考えられる。電池品質の劣化懸念は、再利用も妨げているようだ。発火リスクなどを避けるため電池はオーバースペック(過剰品質)となる一方、再利用にかかる費用対効果が合わず、短期的な利益を得られる海外流出が進んでいるという。このため、同社は電池の品質保証や安全管理などの手法を規格化し、再利用を促す「スマートユース」を提案している。伊藤忠商事や中古車大手のイドムなどと講演会を開き、今年度中に「協議会」を立ち上げるという。とはいえ、中古EVに対してユーザーが抱く不安の払拭はそう簡単ではない。折しもEV販売が昨年後半から世界的に失速するなど逆風も吹く。中古EVの残存価値を高めて二次流通を促し、国内の自動車関連産業の競争力強化につなげられるか、現段階では道筋が見えていないのが実情だ。

 籾山氏は「今が実現に向けての分岐点にある。欧州や中国のように強制力を入れていかないと(循環の)サイクルが回り始めないのでは」と懸念している。