今年度の発売を予定する「CX―80」

 2030年に向けて3ステップでの電動化戦略を進めるマツダ。今年度までの第1段階に出そろう「ラージ商品群」を成長の原資に、27年には専用プラットフォームを用いた電気自動車(EV)を投入し電動化を本格化させる。同社の場合、世界生産の6割以上を日本が占める。為替や通商環境、各国の産業政策・規制などが目まぐるしく変わる中、主力とする米国の生産体制とサプライチェーン(供給網)構築が今後のカギとなる。競争が激化する中国や、需要が急減するタイのテコ入れも目下の課題だ。

 23年度の世界生産は前年度比7.4%増の121万9千台と2年連続で増加した。ボトルネックだった半導体関連部品の代替供給を進め、生産力は着実に回復した。ただし地域別では濃淡も残る。

 国内生産は79万9千台と、同4.5%増加した。「2030経営方針」のフェーズ1(22~24年)での成長を担うラージ商品群も防府第2工場(山口県防府市)など国内生産だ。今年度は「CX―80」を投入など、合わせて4モデルを日米欧の各市場に本格展開する役割を担う。

 主力市場である北米では生産も好調だ。22年に生産を開始した米アラバマ工場は23年夏に2直体制へと移行。前年比73.6%増と大幅に生産台数を伸ばし、「CX―50」の堅調な販売を支えている。生産開始から10年を迎えたメキシコ工場は23年度、同16.6%増となり、年産20万台体制が視野に入った。北米市場では今年度、過去最多の60万台を販売する計画で、日本からの輸出と現地生産がこれを支える。

 収益力強化に向け、今後も海外生産の強化が求められるが、先が読めない事業環境が懸念材料だ。直近では為替レートも激しく変動し、欧州向け輸出は紅海周辺の治安悪化の影響も受ける。

 とりわけ米国市場では11月に控える大統領選後が見通せない。トランプ前大統領は7月、米国外の生産車に対して最大200%の関税を課す考えがあると演説で述べた。同社は、メキシコでのラージ商品群やEVの生産を検討しているが、毛籠勝弘社長は今年2月に「(政策の行方が)見えてこないと方針を固められない」と語っていた。

 一方、中国では現地メーカーの新エネルギー車(NEV)のシェア急伸により日本メーカー各社の苦戦が続く。マツダは昨年、第一汽車集団への生産委託を終了し、現地生産を重慶長安汽車との共同出資会社に絞った。NEVは今年投入予定の「EZ―6」を皮切りに、複数モデルを生産・発売し、反転攻勢を目指す。

 タイも自動車ローン審査の厳格化で需要が低迷しており、23年度の生産は同32.8%減と厳しい。もっとも全需自体が落ちており、ジェフリー・エイチ・ガイトン代表取締役専務執行役員兼CFO(最高財務責任者)は「強みを生かしてブランドのポジションを確立していく」と、価格競争とは一線を画す考えだ。

 電動化に向け、2030年までに計1兆5千億円規模の投資を計画するマツダ。車載電池はトヨタ自動車が出資するプライムプラネットエナジー&ソリューションズ、中国系のAESCに加え、今年3月にはパナソニックエナジーと供給で合意した。市場競争力や規制動向に合わせてサプライチェーンの〝複線化〟を進める。

 地場サプライヤーと連携した競争力強化にも取り組む。製造コストや労務費上昇分の受け入れにとどまらず、下請け階層の簡略化や調達構造の見直しなど、サプライチェーン全体での効率化にも戦略的に取り組む。毛籠社長は「地元の取引先との共創活動をさらに進め、地域から成長型経済へ転換していきたい」と将来を見通す。

 「意志あるフォロワー」が電動化戦略を青写真通りに具現化できるか、生産の最適化と合理化が重要なファクターとなる。