自動車メーカーの経営が分岐点に差し掛かった。莫大な資金を投じて電動車の開発や生産準備を進める一方、中国での巻き返しや米国の景気後退リスクにも備える必要がある。中長期的な電動車シフトは確実だが、足元では産業や通商、環境政策などの不確実性が増し、投資判断が悩ましいところだ。コロナ禍を経て復調した2023年度(23年4月~24年3月)の状況を振り返りつつ、各社のものづくり戦略を読み解く。
トヨタ自動車は、24年に入ってから生産現場に〝余力〟を生み出すための取り組みを進めている。品質問題や認証不正に伴う稼働停止が断続的に続く中、開発や生産のペースをあえて落とす「踊り場」を設けることで持続的な成長につなげる狙いだ。
23年度を振り返ると、生産水準はかなり高かった。世界生産台数は前年度比9・2%増の997万台となり、2年連続で過去最高を更新した。半導体不足の緩和によって国内外で生産が本格的に回復したことに加え、北米や欧州でハイブリッド車(HV)の販売が好調に推移したためだ。一方、期初に掲げた計画の1010万台には届かなかった。国内工場の稼働停止や中国の急速なEVシフトによる競争激化が目算を狂わせた。
23年度の国内生産は同18・7%増の330万台となった。トヨタが国内の雇用や技術維持に必要とする300万台を4年ぶりに上回り、さらに1割高い水準で着地した。ただ、8月には生産指示システムの不具合で国内全工場の稼働が停止し、10月には仕入先の事故によって部品供給が滞り、11月には部品の誤使用によって稼働停止を余儀なくされるなど、綱渡りで達成した側面もあった。
国内に次ぐ生産規模を誇る中国も落ち込んだ。23年度実績は同4・9%減の167万台。EVに対する補助が手厚い中国では地元メーカーの攻勢が想定以上強く、EVのラインアップが手薄なトヨタは苦戦を強いられている。世界最大の自動車市場で巻き返しを図るためには、中国市場向けの商品投入に加え、効率的な生産体制の構築が欠かせない。
高水準の生産が続く中、突発的な稼働停止にたびたび見舞われ、生産現場や部品を納入するメーカーは急変動する生産への対応が大きな負担となっていた。こうした中、国内ではフル稼働状態の日当たり1万5千台を24年4月からは1万4千台まで下げ、仕入先も含め、現場が抱える業務負荷の検証を始めた。
ただ、6月に型式指定申請に関する手続きで不正行為が発覚。「ヤリスクロス」や「カローラフィールダー」「同アクシオ」の3車種が生産停止となった。9月には生産を再開する予定だが、停止期間は3カ月に及ぶ。4月には「プリウス」の後席ドアハンドルで品質問題が起き、こちらも3カ月間、生産を停止していた。こうした影響を踏まえ、仕入先に示していた24年の世界生産計画は、年初の1030万台から50万台減らし、980万台とした。
一時は〝周回遅れ〟と揶揄(やゆ)されたが、EVの投入に向けた生産体制の構築も着々と進む。米国では25年からトヨタ・モーター・マニュファクチャリング・ケンタッキーで3列シートSUVのEV生産を始める。26年からインディアナ工場でも別のEVを生産する。現在、EV向けの電池を生産する工場をノースカロライナ州に建設中だ。
国内でもプレミアムブランドのレクサスでEV生産体制を整える。「LS」や「IS」を生産する田原工場(愛知県田原市)では、大型アルミ鋳造技術「ギガキャスト」や「自走組立ライン」など、新たな生産手法を用いた次世代EVの生産を検討している。
福岡では、レクサスの主力工場であるトヨタ自動車九州(長木哲朗社長、福岡県宮若市)宮田工場(同)に供給する電池工場を新設する計画だ。
足元では燃料高も背景にHV販売が好調だ。トヨタとしては、稼いだ利益を原資に電動車シフトをマルチパスウェイで着実に進めていく。