日産自動車が試練に直面している。中国に加えて収益の柱である米国事業が苦戦し、2024年4~6月期の連結営業利益は前年同期比99%減の10億円と損益分岐すれすれだ。内田誠社長CEO(最高経営責任者)は「非常に厳しい結果になったが、対策を打ち出し、新型車を投入していくことで業績を回復していく」と前向きだが、3年後に新車販売を100万台増やす中期経営計画は出足から目算が狂った。
4~6月期の業績悪化は米国事業の不振が主な原因だ。4~6月期の米国販売は23万7千台(同3.1%減)で、米国事業は赤字だった。
まず、販売の3割を占める主力モデル「ローグ」のモデル切り替えが上手くいかなかった。23モデルイヤーの在庫が高水準だったため、インセンティブ(販売奨励金)を積み増した。この結果、利益率が悪化しだけでなく、24モデルイヤーへの切り替えも遅れた。ローグ以外も米国在庫は競合他社と比べて高水準で販売費用が重い。こうした状況は7~9月期も続く見通し。
燃費改善効果の高いストロングハイブリッド車(HV)を持たないことも痛手だ。トヨタ自動車が「プリウス」を発売した1998年当時は経営危機の瀬戸際でHVどころではなく、その後はカルロス・ゴーン氏主導のもと電気自動車(EV)で起死回生を狙ったが不発に終わった。スティーブン・マー最高財務責任者(CFO)は「利益率の高い一部セグメントの商品の老朽化や市場のHVへの移行による影響」を挙げた。
米国事業の立て直しに向け、10~12月期までに在庫水準を適正化するとともに「アルマーダ」「ムラーノ」「キックス」「インフィニティQX80」の新型車を投入する。7~9月期に在庫削減費用などが1100億円の減益要因となるため、通期の営業利益予想を前回予想から1千億円引き下げ、5千億円とした。
それでも狙いどおりに業績が回復するとは限らない。利益率の高いHVの開発には時間がかかる上、さまざまなコストが上昇する中で原価低減効果が見込みにくくなっているからだ。
日産は今年3月、取引先の中小企業に対して発注した代金から「割戻金」として一部を差し引いていたことが下請法違反に当たるとして、公正取引委員会から勧告を受けた。再発防止に向け、日産は専門組織の立ち上げとともに、原材料やエネルギーコストの上昇分を取引価格に反映させる取り組みを積極的に進めている。この影響で「原価低減が進んでいない」(日産と取り引きのあるサプライヤー)との声もある。
4~6月期の営業利益の増減要因で、部品購買価格の引き上げなど、ものづくりに関する「インフレ影響」は209億円の減益要因だった。原価低減などの費目が入ると見られる「ものづくりコスト」の合計は増減ゼロだ。
3月下旬に発表した中期経営計画「The Arc」では、最終26年度までに新車販売を23年度より100万台増やして455万台とし、営業利益率も6%以上という「量と質」を追求する目標を掲げた。しかし、早くも今期は世界販売計画を当初比5万台減の365万台に引き下げた。それでも、25年3月までに前年同期実績より販売を約20万台増やす必要がある。ホンダとの協業は「非常に良い進ちょくを見せている」(内田社長)というが、即効性は期待しにくい。
中国、米国という2大市場で苦戦し、サプライチェーン(供給網)への目配りも求められる中、数字と収益の二兎を追えるか、夏以降も難路が続きそうだ。
(編集委員・野元 政宏)