トヨタ自動車はELVのシュレッダーダスト(ASR、写真左)からアルミなどを選別する独自技術を確立
スバルは航空機製造時の端材の炭素繊維を再利用し、「スーパー耐久」レース車のボンネットに活用
ホンダはバンパーの再利用のほか、リサイクルアルミを二輪車用ホイールに用いる取り組みなどを進める
住友化学はELVなどから廃プラを選別し、再び自動車部品として循環させるプロセスを研究している
三菱ケミカルのバイオエンプラはホンダの二輪車用ウインドスクリーンにも使われている
マツダは「MX―30」の内装に祖業のコルクを用いて、サステイナビリティーとブランドの演出に生かす

 自動車部品に植物や使用済み自動車(ELV)由来の素材を用いる取り組みが広がっている。バイオ素材の活用といった動きそのものは10年以上前からあるが、企業活動にサステイナビリティー(持続可能性)を求める時流と相まって、各社が訴求の姿勢を強めている。欧州では新車にELV由来の素材を使うことを義務付ける「ELV規則」の施行が控えており、国内でも再生プラスチックの利用を促す議論が経済産業省で進む。こうした取り組みが環境負荷低減につながることは期待されるが、実効性やコストなどの課題が残るのも実情だ。

 クルマは人の命を乗せ、強い日差しや風雨、雪などに10年以上さらされる。原材料には高い品質を担保することが求められ、バージン材と呼ばれる新品原料が主に使われる。樹脂などは石油をはじめ天然資源に由来するため、植物由来原料などを混ぜたり代替したりする動きが2000年代以降に広がった。

 近年、取り組みが本格化しているのが自動車向けに品質を強化したエンジニアリングプラスチック(エンプラ)領域だ。スズキ「Sクロス」やマツダ「CX―5」などのフロントグリルには三菱ケミカルホールディングスのバイオエンプラが使われている。植物由来が主原料ながら、耐久性や発色に優れる利点があるという。着色材を混ぜて塗装不要にすることで、自動車製造時の二酸化炭素(CO2)排出量の約3割を占めると言われる塗装工程を減らしている。

 エアバッグなどに使われるポリアミド66(PA66)繊維も、熱処理を施して自動車部品に「戻す」取り組みが模索される。旭化成はマイクロ波を用いて高効率にリサイクルする技術を研究している。

 ユニークなのがスバルの取り組みだ。同社は航空機部品を製造する航空宇宙カンパニーで生じた炭素繊維の端材をレース車両の部品として再利用している。炭素繊維はスポーツカーやレース用部品など用途は限定的だが、再利用や原料に戻すことが難しい素材の一つだ。

 欧州ではELV規則の議論が進む。新車に使うプラスチックの25%以上を再生プラとし、うち25%はELV由来とすることを求めるものだ。現状でほとんど採用実績がない中で同規則のインパクトは大きく、各社は技術研究を進めている。ホンダは使用済みバンパーなどを再利用する取り組みを進めている。四輪車のアンダーカバーに採用したほか、今年発売予定の熊本製作所製の大型二輪車にも活用する予定だ。

 一方、議論の動向を注視する動きもある。ヤマハ発動機は現状、樹脂の工程端材の再利用にとどまっており、ELV由来素材の活用に向けて規制値や31年と予測される施行年を注視している段階だ。スバルは23年7月の規則案公表前からELV由来素材を将来的に25%活用する目標を議論していたという。規則が掲げる値と合致したことで、今後取り組みを本格化させる。東レの担当者は「(規則が)本当にそうなるか(各自動車メーカーが)様子を見ながら技術をつくっている状況」と話す。

 環境に配慮した素材を活用する取り組みは対外的なアピールにつながる一方で、素材の調達から製造まで、実際に環境負荷低減にどの程度の効果をもたらすかは明確ではないのが実情だ。新車への採用と並行して求められるのが、シュレッダーダストを含めてELVから多くの資源を分別・回収し供給する技術だ。新車に用いる「上流」と、解体業者などELVの再資源化を担う「下流」の相互のレベルアップが必須となる。

 国内でも事業者に対し、再生プラの利用計画や実績の報告を求める議論が経産省で進んでいる。循環経済への移行に向けた動きが官民で進むが、リサイクルの技術と経済合理性といった課題は残されたままになっている。

(中村 俊甫)