フォーミュラE東京大会決勝の2日前、英ローラとの参戦を発表(左から2人目が丸山常務)
電池残量を意識して走るのはレース車両も市販車も同じだ

 日本で初開催された電気自動車(EV)レース、「FIAフォーミュラE 世界選手権」に合わせ、ヤマハ発動機は「シーズン11」(2024―25年)からの参戦を発表した。「高度なエネルギーマネジメント技術を獲得し、全事業の電動技術の底上げに結び付けていきたい」。パワートレインを統括する取締役常務執行役員の丸山平二は会見でこう語った。

 ヤマハ発がモーターやインバーターなどの電動パワートレインを開発し、英ローラ・カーズの車体に搭載して参戦チームに供給する。同社が国際四輪競技に参戦するのはF1(フォーミュラワン)にエンジンを供給した1997年以来だ。

 電動技術自体は本業に近いトライアル競技に電動バイクで参戦し、好成績も残している。なぜフォーミュラEなのか。丸山は「技術の研さんに向けた(電動モータースポーツの)最高峰だからだ」と説明する。

 四輪ほどの規制は進んでいないものの、二輪車にもやがて電動化が求められることは時代の趨勢(すうせい)だ。ヤマハ発も、今年までに電動車を計10モデル投入し、50年には二輪車の90%を電動化する方針を持つ。

 ただ、充電インフラ不足や高コスト、航続距離の確保といった課題は残ったまま。車載電池を独自開発することも生産量を考えると難しい。このため、外部調達した電池をいかにうまく使いこなすかが重要となる。言い換えると、電動化戦略を進める上での最重要ポイントはエネルギーマネジメント技術に行き着く。

 フォーミュラEもまた、エネルギーマネジメントが勝負のカギを握る。車体形状やタイヤ、車載電池は全チーム共通で、開発はパワートレインなどに一部に制限される。決勝レースでは、〝限りあるエネルギー〟をどこでどう使うかの戦略が問われる。東京大会では、日産自動車のオリバー・ローランドが首位で安定した走りを見せつつ、0.7秒差で優勝を逃した。ローランドは「エネルギーをセーブするためにトップを譲らなければならなかった」と敗因を語っている。

 現行のフォーミュラEマシンは第3世代に当たり、エネルギー全体の約6割をバッテリーから、約4割をモーターからの回生でまかなう。いかに電池残量を管理しつつ、多くのエネルギーを回生して早くゴールに到達できるか。フォーミュラEで電動パワートレインの効率を極限まで高めることは、小型電動モビリティの性能向上にもつながる。

 「フォーミュラカーの世界は欧州中心で、新たな技術でいかに相手を出し抜くか、学べることは非常に多い。上(の世界)を知って何を使うか、応用は効く」。ヤマハ発の技術・研究本部でAM(自動車用エンジン)開発統括部長を務める原隆は、厳しい開発競争で得られる技術が同社製品の競争力を広く底上げすることにつながると話す。

 ヤマハ発は1955年、日本楽器(現ヤマハ)から分離・独立する形で創業した。当時、日本でも約200社の二輪メーカーが乱立していた。ヤマハ発は後発ながら、富士登山オートレースや浅間高原レースで優勝し、高性能イメージでシェアを高めていく。「トヨタ2000GT」などスポーツカーの〝黒子〟としても業界では知られる。

 二輪EVの事業環境は中国や東南アジアなど新興勢も入り乱れ、創業当時を彷彿(ほうふつ)とさせる。丸山はフォーミュラEの技術について「われわれの技術と比べて格段に高い。参画できれば学び取るところは大きい」と話す。ポルシェ、ジャガー、日産などとの真っ向勝負で得た技術が、同社の電動化ロードマップを実現する原動力となる。

 

 ヤマハ発動機は「フォーミュラE」に英ローラと組んで来シーズンから参戦する。二輪を主力事業としながら四輪レースの世界選手権に挑む狙いや、同社の電動化戦略を追った。(敬称略)