旧ビッグモーター側との再協定が大幅に遅れている

 旧ビッグモーターの自動車保険金の不正請求問題で、損害保険大手4社の現在までの調査で判明した約6万件の不正請求の精算(再協定)が、ほぼ手付かずの状態であることが分かった。旧ビッグモーターや訴訟や損保などへの補償業務を引き継いだバーム(和泉伸二社長、東京都多摩市)の対応が遅れているため。本来は、同社と損保各社が擦り合わせて本来の正しい請求額を確認し合う再協定作業が必要だ。こうした事態を受け、損保各社は自主調査を基に契約者に返金をするなど、顧客重視で対処している。

 旧ビッグモーターは伊藤忠商事など3社連合が買収。5月に、中古車事業を承継したウィーカーズ(田中慎二郎社長、東京都千代田区)とバームの2社に分割・再編された。不正請求問題はバーム側が対応することになっている。

 損保各社が過去にさかのぼって調査した対象数は損保ジャパンが約11万5千件(過去約8年、95%の調査を終了)、三井住友海上火災保険は約5万件(同5年)、東京海上日動火災保険は約4万9千件(同7年)、あいおいニッセイ同和損害保険は約2万3千件(同7年、全件調査終了)で、計約24万件に及ぶ。大手4社の自主調査は全体で8割弱が終わっており、このうち6万1千件で不正があったと認定されている。

 ただ、損保各社の自主調査に比べて、旧ビッグモーターやバームとの再協定は大幅な遅れが目立つ。現時点で再協定を終えたのは約1800件と、全体の約3%にとどまる。

 大手4社によると、この件は旧ビッグモーターの「外部調査委員会」が窓口になっていたという。損保側は早急に進めてほしいと伝えてきたものの、なかなか進展しない状況が続いている。損保側は自主的な顧客対応を進めているが、再協定をしなければ、本来顧客に返却するべき金額などを最終的に確定できないといった問題が残される。

 ある損保によると、先方と損保側の代理人(弁護士)同士で、今後の進め方についての話し合いをしているという。今のままでは再協定が終わるまで、どれだけ時間がかかるのか、めどが立たない状況だ。

 旧ビッグモーターと深い関係にあった損保ジャパンの親会社のSOMPOホールディングスは23年7月、ビッグモーターに対して損害賠償請求の訴訟を起こす準備を始めたと表明した。ただ、損保ジャパンの石川耕治社長は24年5月中旬の取材に対し、「(訴訟を起こすより)まずバームとの話を進めて顧客の対応をするのが先」とし、現時点で訴訟については慎重な構えをみせる。石川社長は「最後の一件まできちんと対応する。そうでないと、何が『新生損保ジャパン』だ、と言われる」と説明する。

 また、不正請求によって、本来保険を使わずに済んだ契約者の中には、保険等級が下がったために保険料の負担が増えたケースもあると想定されていた。4社によると、現時点で、保険の等級を元に戻すことになった契約者はごくわずかで、合計で数百人にとどまっているという。