新型の液体水素タンク(左)
GRカローラH2コンセプト

 トヨタ自動車は、耐久レースに参戦中の水素エンジン車で、楕円形状の液体水素タンクを初めて採用した。従来の円筒型タンクと比べ、5割多い水素をためることができ、航続距離も約135㌔㍍と5割延びた。気体の水素に比べると2倍以上の搭載量になる。車内スペースもより効率的に活用できるようになり、水素エンジン車の実用化に向け、一段と完成度を高めた。

 25~26日に富士スピードウェイ(静岡県小山町)で開催した「スーパー耐久シリーズ富士24時間レース」に参戦した「GRカローラH2コンセプト」に搭載した。

 トヨタは2021年から開発中の水素エンジン車で耐久レースに参戦している。燃料の水素は当初、気体を使っていたが、23年からはエネルギー密度の高い液体水素に切り替えた。今回、初搭載した異形タンクは、円筒形と天地の高さはほぼ同じながら容量を150㍑から220㍑に増やした。22年の24時間耐久レースに参戦した気体水素エンジン車との比較では航続距離が2.5倍に延びたという。

 燃料電池車(FCV)「ミライ」にも搭載されている気体水素のタンクは、70㍋ パスカル (約700気圧)という高圧に耐えるため円筒型だ。液体は気体よりも低圧なため、異形化が可能になった。

 ただ、液体水素を車両に搭載する法律が未整備であることから、これまでは液体水素をためる一般的な法規に照らし合わせて円筒型にしていた。GR車両開発部の伊東直昭主査は「楕円形を採用することはこれまで以上に法規制の解釈が難しくなるが、安全性を証明するために関係機関と相談し、今回許可を得た」と話す。23年の24時間レースで、水素社会推進議員連盟会長の小渕優子衆議院議員が視察に訪れた際、豊田章男会長が「水素を国としてサポートしてほしい」と声掛けしたことで「ものすごいスピードで異形タンクが実現した」とガズーレーシングカンパニーの高橋智也プレジデントは語った。

 航続距離は約135㌔㍍まで延びたが、市販するにはさらに距離を延ばす必要がある。航続距離を延ばす手法としてハイブリッド機構を活用する可能性について、伊東主査はレース車両への搭載は否定したものの、市販化の際には「選択肢としては可能性がある」と語った。

 耐久レースに参戦した水素エンジン車はタンク以外も進化した。タンク内の液体水素を昇圧してエンジンに送るポンプの耐久性を高めた。これまでは、モーターにトルクを伝えるクランクのベアリングやギアに偏った負荷がかかり耐久性に課題があった。今回、クランクの両端からモータートルクを入力する「デュアル・ドライブ」を採用したことで、これまで2回の交換が必要だったポンプを無交換で走り切れるようにした。

 23年11月のシーズン最終戦に投入した二酸化炭素(CO2)回収装置は、これまでピットイン時にメカニックが手動で行っていたCO2吸着フィルターの切り替えを自動化した。