三菱自から業界や販売会社の現状などに対するレクチャーを受けた
足元の販売は好調だが…

 地元志向のクルマ好きが自然と集まってきたのも今は昔。自動車ディーラーが採用活動に苦労するようになって久しい。こうした中、「どうすれば販売会社へ応募が増加するか」をテーマにしたユニークな研究プロジェクトが今年4月、九州産業大学で始まった。研究成果は年末にもまとまる見通しだ。

 この研究に取り組むのは、九産大商学部の安熙卓教授と脇夕希子准教授のゼミに所属する41人の大学3年生たちだ。4月末までに九州三菱(牟田弘昭社長)の販売拠点や、三菱自動車が実施した合同説明会などを見学したり、三菱自から全国の販売会社の状況についてレクチャーを受けたりした後、5月から本格的に研究を進めている。

 研究は三菱自側からの働きかけで始まった。背景には慢性的な人材不足と国内事業の成長戦略がある。三菱自の系列販売会社で働く営業スタッフは現在、約2500人。この人員で23年度は前年を大幅に上回る年間11万台を販売した(店頭での直販は7万台)。「デリカミニ」「トライトン」のヒットに続き、2026年度からは〝パジェロ〟の復活や「デリカD:5」「アウトランダー」の全面改良が控える。

 しかし、「今の時点でも人手が足りず、生産性の改善だけでこれ以上、販売台数を増やすことは簡単ではない。仮に15万、20万台へと販売を増やすのであれば、3千人程度に増やさなければ難しい」と山西学・国内営業本部長補佐兼国内企画部長は話す。このため、三菱販社への営業スタッフの就職実績が最も多いという九産大に白羽の矢を立てた。

 仕掛け人である国内営業本部の澁谷航平さんによると、すでにある商品やサービスに対して企業が学生の意見をもらうという産学連携の取り組みはあるが、企業の事業課題を学生と一緒に研究する事例は珍しいという。澁谷さんは「普段の採用活動だけでは聞けない学生の意見がある。そこを共同研究の中でヒアリングしていきたい」とも語る。学生らに対しては、研究で得た学びや経験を就職活動に生かしてもらいたい考えだ。

 日本自動車販売協会連合会(加藤敏彦会長)がまとめた「ディーラービジョン(23年度版)」でも、インフレなどと並び労働力不足が「ディーラー経営を脅かしている」と指摘、人材の確保や育成策づくりを求めている。手をこまねいていれば、業績拡大どころか、店舗やサービス網の維持が難しくなりかねない。

 最終的にどのような研究成果が出るかは分からないが、業界の課題を解決する本質的な指摘や優れたアイデアが生まれるかもしれない。

(水鳥 友哉)